しばらく列に並んでいると、列の一番前にいかにも貴族って感じの派手なカップルが、割り込もうとして揉め始めた。
いるよね、ああいうの。
みんな長い間待ってるのに嫌になっちゃうよ。
私が顔をしかめてると、ザクセンさんがふらりとその人たちのところに行った。
注意するのかな?

連中は近づいてきたザクセンさんに、警戒して睨んでいた。
「なんだお前は、何か文句でもあるのか? 俺たちは上流貴族なんだぞ。」
男が嫌みったらしく叫んでる。
自分の権力を振りかざす嫌な奴。
一緒の女は当然って顔してるし。
「みんな並んでいるんだ、後ろに並んだらどうだ?」
ザクセンさんは、穏やかに笑ってる。
「どうして貴族の俺たちが、わざわざそんなことをしないといけないんだ。そんなのは平民や下級貴族がすればいい。」
ザクセンさんは正真正銘上流貴族なんだけど、知らないのかな?
男は全く移動する気配はない。

「そうか。俺は貴族の権力を振りかざす奴が一番嫌いだ。」
ザクセンさんの声に微妙に凄みがあって、男は少しびくついている。
「何ですのあなたは? まだ文句がありますの?」
鼻にかかったような女性の声で、男は気を取り直して、剣の柄に手をかけた。
連れている女にいいかっこ見せたいんだろう。
剣を抜いてもザクセンさんに勝てるとは思えない。

「剣を抜くなら抜いてみろ。相手になってやる。ただし手加減はしてやらん。」
さっきまでの穏やかさは消えて、妖魔を前にしたような殺気をはなつザクセンさんに男は青くなった。
「まあ。なんて態度ですの。そんな輩やってしまってくださいな。」
男とは違って、女は全く状況がわかっていない。

男は剣を抜いて、ザクセンさんに向かったけど、ザクセンさんは男の剣を払い落とし、男の首に剣を当てた。
男はガクガク震え、女は悲鳴を上げて、転けそうになりながら、みっともなく逃げ去った。
ザクセンさんが剣をしまうと、男は急いで女の後を追って逃げた。

さすがザクセンさん。
周りの人たちからは拍手が上がった。
少し照れながらザクセンさんが戻ってきた。
「お疲れさまでした。スカッとしました。」
「それはよかった。ちょっと大人げないことした気がするけどな。」



やっとお店に入れた。
店内でも食べれるし、持ち帰りも可能だ。
ショーウィンドーには、チーズケーキ、ショートケーキ、チョコレートケーキ、アップルパイなんかが並んでいた。
おいしそう。
私がどれにしようか悩んでいると、ザクセンさんは全種類1つずつ注文して、案内された席に向かったので、慌ててついていった。
「全部食べるんですか?」
「悩んでただろ。好きなやつを好きなだけ食べたらいい。」
わ〜い。
遠慮なく食べさせてもらいます。

運ばれてきたケーキは、素朴な町のケーキ屋さんの味だった。
お言葉に甘えて全種類ちょっとずついただく。
私が食べている間ザクセンさんは、お茶を飲んでいるだけ。
「食べないんですか? 美味しいですよ。」
「そうだな。」
ザクセンさんは、私が食べようと思ってケーキを刺したフォークを、私から取って口に運んだ。
「なかなかうまいな。」
ニヤッと笑ったけど、今の間接キスだよね。
びっくりしちゃったよ。
「自分のフォーク使ってください。」
赤くなって声が震えてしまった。
まだザクセンさんはニヤニヤしている。
もしかしてからかわれた?



私は半分くら食べるとおなかいっぱいになったので、フォークを置いたら、そのフォークで残りを全部ザクセンさんが食べた。
私の使わなくともいいのに。
抗議したらおもしろがられそうだから、見なかったことにする。
「ごちそうさまでした。」
「ケーキは気に入ったか?」
「はい。」
大満足。
いっぱい食べちゃった。
もしかしたら太ったかも
明日からダイエットしよう。
「じゃあまた来るか?」
「私でよかったら、喜んで。」


それから私たちは腹ごなしに、のんびり歩きながら帰った。リン用におみやげのケーキも買ってもらった。
リンはきっと喜んでくれるだろう。









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