―― ザクセン視点 ――



さて、どうしたものか。
ルイーゼと沙羅が行った方向をじっと見る。
確かに平民に見えなくもないが、平民にしては違和感がありすぎる。
ちょっと観察すれば、貴族の令嬢だとわかりだろう。
2人とも自分たちの容姿が全く分かっていない。
ルイーゼも沙羅も滅多にいない美女だ。
たとえ貴族だと、ばれなかったとしても人買いに売られる可能性もある。
この前街に行った時だって、変な輩が沙羅をチラチラ見ていた。
あの時は俺が一緒だったから何もなかったが、女2人なら何かあってもおかしくない。
困ったことになった。
「どうする?」
隣のカイエンを見る。
「もちろん追いかけるに決まっているだろう。お前は先に行ってろ。私は騎士連中に今日の訓練を適当に指示してから行く。」
「了解。」
カイエンが訓練場に走って行ったので、俺もすぐに沙羅達を追いかけた。



女の足でのんびり歩いていたので、すぐ追いつけた。
今のところ何もないらしい。
2人ばれないように距離を取って、護衛する。
平民ねぇ。
ルイーゼの気持ちがわからなわけじゃないが。
せめて護衛くらいつけてほしいものだ。
今回は大目に見てやるか。



沙羅達が食べ歩きを始めたころ、カイエンとリンが追いついてきた。
「遅かったな。」
「ああ、ちょっと嫌な奴に捕まってな。」
カイエンが顔をしかめているから、上流貴族の鼻もちならない奴にでも会ったかな。
リンがすぐに沙羅たちのもとに行こうといたので、腕を捕まえて止めた。
「おい、ちょっと待てリン。」
「どうしてですか?」
リンが俺を睨んでいる。
相変わらず、職務に忠実というか、沙羅命な奴だな。
「せっかくだから、2人で楽しませてやろう。護衛ならここからでも十分だろう。」
リンはかなり不満そうだ。
「そうだな。私たちがいれば何とかなるだろう。しかし今回だけだぞ。」
カイエンはたぶん俺の意図に気がついたのだろう。
ルイーゼに最初で最後かもしれない、平民を味あわせてやろうと思った俺の気持ちに。
つき合わせた沙羅には申し訳ないが、この埋め合わせは何かしよう。
「わかりました。」
しぶしぶリンが了承した。



さっきから沙羅達の後ろを不審な奴らが歩いている。
沙羅達は気づいていないが、あきらかにおかしい。
人買いか、強盗目的か、強姦目的か、いいものでないのは確かだろう。
俺はカイエンとリンに目配せして、そいつらのすぐ後ろまで迫った。
沙羅達が魚屋の前で止まると、後ろの男達も止まる。
やっぱりおかしいな。
沙羅達に気づかれないように、男たちを路地裏まで引っ張り込む。
カイエンはそのまま護衛を続行し、俺とリンで男たちと対峙する。
俺は男たちを睨んだ。
こんな奴らに手間取っているわけにはいかない、また次の奴らが現れないとは限らない。
「何が目的だ?」
連中の1人がニヤニヤ笑って言った。
「何のことだかさっぱりわからないなぁ。」
俺たちを侮っているらしい。
それとも余裕ぶっているだけか。
「そうか。だったらちょっと痛い目でも見てもらおうか。」
俺が剣のつかん手を伸ばすと、やばいと思ったのか、一目散に逃げていく。
意気地のない奴らだ。
「ザクセン様、あんな奴らに殺気を出さなくても・・・。それは怖がりますよ。」
そうか?
そんなつもりはなかったが。



俺たちはすぐに沙羅達の護衛に戻った。
カイエンが顔をしかめて、指をさした。
沙羅達の横にまた、不審な奴らが張りついている。
またか・・・。
「今度は私が行く。」
「了解。任せた。」
次はカイエンに任せよう。
カイエンとリンがそいつらを沙羅達から引き剥がして、離れていく。
まったく次から次へと・・・。
王都も物騒になったものだ。



その後の何度も沙羅達から不審者を引き剥がした。
もう数えてもいない。
俺たちが来ていなかったらどうなっていたか、考えたくもない。
沙羅もルイーゼも楽しそうだが、これっきりにしてほしい。
沙羅が以前王宮を出て暮らしたいと言っていたが、1人だとどうなるか・・・。
俺もカイエンも心配で、いてもたってもいられなくなりそうだ。
やっと2人が別れたので、沙羅の事はカイエンとリンに任せて、ルイーゼの後を追った。



「よぉ、街は楽しかったか?」
背後からルイーゼに声をかけると、一瞬ビクッとしたが、すぐに俺だと気がついて、警戒を解いていた。
「こんばんわ、兄様。今帰りですか?楽しかったですわ。また行きたいですわ。」
ルイーゼはニコニコしているが、もう勘弁してくれ。








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