―― アレンの一日 ――


昨日はザクセンの妹主催のお茶会とかいうものがある為、リンも沙羅もリオも出掛けていていない。
オイラは沙羅達とここに来てから、リンの部屋に住んでいる。
オイラとしては、沙羅と一緒の部屋がよかったのに、リンに無理やり連れてこられた。
力を使えば、リンなんて負ける気はしなけど、力を使ったらここにいられないから、使えない。
少し不便だ。
リンの部屋は沙羅の部屋と違って、広くない。
侍女連中はみんなこんな部屋らしい。
部屋にはベッドと戸棚が1つあるだけで、装飾品もなにもなくて、殺風景だ。
部屋にいても退屈でしょうがない。
だからオイラは散歩に出て、ほとんどこの部屋にいない。
今日も散歩に行こう。
外は晴れていて、暖かい日差しがさしているから、絶好の散歩日和だ。


オイラの散歩コースは王宮一周。
意外とここは退屈しない。
前によく行っていた港街とは比べ物にならないほど、たくさん人がいる。
まずここに来て、こんなにたくさん人がいることに驚いた。
よく見かけるのは、侍女という奴らで、リンと同じ恰好をしている。
あいつらは、オイラによくかまいたがる。
散歩していると必ず寄ってきて、抱っこしたり、撫でたり、餌をくれたりする。
沙羅ほどではないけど、抱っこされると気持ちがいいし、悪い気はしないから、好きになようにさせている。
猫っぽくニャーと鳴いて、相手をするとさらに喜ぶ。
おもしろい奴らだ。
ああ、あそこに数人固まっているから、退屈しのぎに行ってやるか。
「ニャー。 ニャー。」

鳴きながら近づくと、オイラに気がついて、ニコニコしながらやってくる。
そのうちの1人はマリーという、確か沙羅のそばによくいる奴だ。
沙羅がいい奴だと言ってたな。
マリはーはオイラを抱っこして、撫で始めた。
「かわいいわねぇ。 リンにはかわいがってもらってる? リンより私のところに来ない? 」
「ほんとにかわいいわね。 私も飼いたくなってきたわ。 私にも抱っこさせてよ。」
「私もぉ。」
侍女連中がオイラを順番に抱っこしていく。
いつものことだ。
「沙羅様無事に帰ってきてよかったわね。」
「ほんと。 沙羅様がいると王宮が明るく感じるものね。」
「今日はいらっしゃらないみたいだけど、どこかへ行かれたの?」
「ルイーゼ様のお茶会よ。」
「ルイーゼ様かぁ。 リオ様とルイーゼ様ってやっぱりデキテルのかしら? 沙羅様とリオ様というのが面白かったんだけど。」
「リオ様はともかく沙羅様は全く、眼中になさそうよ。」
もしかしてリオは、沙羅が好きなのか?
どうりでオイラが沙羅にひっつくと、睨んでくるわけだ。
侍女連中はこうゆう話好きだな。

「沙羅様と言えば、カイエン様とカール殿下とはどうなっているのかしら?」
カイエンは確か、ザクセンとよく一緒に行る奴だな。
カールは知らない。
「それは私も謎なの。 決闘までしたのに未だに進展なしかも。」
「うらやましい話よね。 私も自分をかけて決闘してほしいわ。」
「あなたじゃあ無理よ。」
侍女連中の笑い声が響きわたる。
「そろそろ戻らないとまずいわね。」
「そうね。 またね猫ちゃん。」
オイラを抱っこしてた侍女から下ろされたので、また散歩を続けることにした。
侍女連中はよく沙羅の話をしている。
おかげで沙羅について色々わかった。
とりあえず今は男はいないらしい。
カイエンって奴とカールって奴が気になるが、帰ってきてから特に動きはない。
オイラは沙羅が好きだけど、恋愛対象じゃない。
だから男がいてもかまわないけど、オイラより男との時間を優先なんかしたら嫌だ




庭園という場所に出てきた。
木陰もあって昼寝には最適だ。
最近までいた場所に比べると、気候も穏やかで過ごしやすい。
オイラに刃向かってくる妖魔がいないのが、少しつまらないが。
とりあえず昼寝でもするか。
お気に入りの木陰で丸くなると、ウトウトしてきた。


けっこう寝てしまったらしい。
もう夕方だ。
伸びをしていると、あくびがでた。
そろそろ沙羅が戻ってくるころかな?
沙羅が通ると思われる回廊で、待ち伏せする。
しばらく待っていると、沙羅とリンが話ながら歩いてきた。リンは機嫌が悪そうなのだ。
沙羅に抱きつくとさらに、リンの機嫌が悪くなりそうなのであきらめる。
リンの機嫌は沙羅絡みが多いから、沙羅に何かあったのだろう?
回廊でおとなしくまっていたオイラを、沙羅が抱き上げた。
「ただいまアレン。」
沙羅がにっこり笑ってくれた。
これからしばらく沙羅にかまってもらおう。








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