「なんでこんなことになっているんだ?」
ミツキに怒鳴られて、私の声は小さくなる。
「えっと、両思いってわかって、勢い?」
ちょっと小首をかしげて、かわいらしく言ってみたけど、全然効果はなくて、睨まれた。
そんなに怒らなくてもいいのに。
半身に恋人ができると、こういうものなのかな?
ミツキにしたら妹をとられた感じ?

「でもどうしたの?私に用だったんじゃないの?」
このままな雰囲気は嫌なので、なんとか話題を変えてみると、成功した。
「ああ。闇の奴は、しっかりお仕置きしておいたから、もう心配ない。あとはヴァレリーとかいう魔法使いだが、どうする?殺すか?」
う〜ん、殺すのはちょっと。
かといってどうしたらいいのかわからない。
「どこにいるかわかってるの?ここにつれてこれる?」
「できるが、どうするつもりだ?」
「女王陛下に任せようと思って。私には人を裁くなんて無理だし。」
私はさっそく謁見の許可を頼んだ。



幸い暇だったらしく、すぐに許可は下りた。
珍しくミツキはそのまま私のそばにいる。
すれ違う侍女さんが、ミツキを振り返るので、ちょっと気持ちいい。
こんな風にミツキと一緒に歩くなんて、子供のとき以来かも。
隣を歩くミツキを見上げると、やっぱりかっこいい。
かっこよさだったら、ダントツなんだけどな。
「俺の顔がどうかしたのか?」
「何にもないよ〜」
慌てて目をそらした。
ミツキに見とれてたなんてわかったら、また馬鹿にされそう。

「おまえあいつと付き合うのか?」
「あいつって、ザクセンさん?ミツキは反対?」
「おまえがいいなら、何も言うつもりはない。」
何だか嫌々認めてくれたような感じがする。
来てからずっと仏頂面だし。
ザクセンさんと気が合わない感じかな?
ミツキにはちゃんと認めてほしいな。
これから長いつきあいになるかもしれないし。
もし結婚したら、ルイーゼの姉か・・。
ちょっと複雑。
ルイーゼには今度報告しなきゃ。

「おまえは好きにすればいい。何があっても俺はおまえのそばから離れないから、そのつもりでな。あいつと喧嘩したら、ちゃんと慰めてやるから心配するな。」
いやいや、そんな心配はしてないよ。
喧嘩はそのうちするかもしれないけど。
「ミツキは彼女いないの?あの闇の精霊は元カノでしょ?」
あのナイスバディーな精霊と何もないとは思えない。
だめだな、最近ついつい思考が危ない方面にむいちゃう。
「恋人だったわけじゃない。たまに肉体関係があっただけだ。」
それってセフレ?
大人の世界だ。
あの精霊と比べたら私なんて・・。
自分の体を見てため息が漏れる。

ミツキが髪をくしゃくしゃと撫でた。
「おまえはおまえだから、気にするな。なんどかやれば、色気もでるだろう。」
やるって、何を?
深く考えない方がいいかな。
ザクセンさんもあの精霊に会ってるよね。
何て思ったんだろう?
さっきのキスの上手さから考えても、経験豊富?
すぐに飽きられたら、どうしよう。
むこうの世界にいた時にその手の本とか読んどくんだった・・・。

変なことを考えて青くなった私と、私を見て顔をしかめるミツキは、気がついたら謁見室の前だった。
あとで考えたら、魔法で心にガードかけてなかったから、ミツキには読まれまくってたはずだ。
ああ、恥ずかしい。
そのときの私はそれどころじゃなくて、全く気づかなかった。



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謁見室には、女王陛下とレオナーさんがいた。
ミツキを見て、ちょっとびっくりしてる。
2人ともミツキとは1回会っただけだから、まだ免疫ができていないみたいで、しばらくミツキに見とれていた。
先に我に返ったレオナーさんが、咳払いして女王陛下を正気に戻していた。

「今日はどうしたのですか?」
「実はヴァレリーの居場所がわかったんですが、どうしたらいいかと思って、女王陛下にご相談したくて。」
ヴァレリーの名前を出した途端、2人の顔が、引き締まった。
「どこにいるんですか?」
「ミツキが今ここにつれてこれるみたいなんですけど、どうしましょうか?」
女王陛下はいつもと少し違った。
困ったような、うれしいような、複雑な顔。
今でもヴァレリーのこと好きなのかも?
後ろのレオナーさんと顔を見合わせて、頷きあうと、私を見た。
「ではお願いします。」
私がミツキを見ると、ミツキは頷いた。

次の瞬間に私と女王陛下の間に、男の人が倒れていた。
男の人は気を失っているのか、ピクリとも動かない。
女王陛下が男のところに走りよったので、私も近寄った。
「ヴァレリー」
女王陛下が呼びかけても、反応はない。
女王陛下はヴァレリーにすがりついて、涙ぐんでいた。

「まさか死んでるの?」
女王陛下に聞こえないように、こっそりミツキにきいた。
「死んではいない。おまえを呼び寄せたせいで魔力が尽きたから、眠って魔力を回復している。ほぼ仮死状態だがな。」
「じゃあ、しばらくしたら起きるの?」
「さあな。起きない可能性もある。」
「何とかならないの?」
「起きた方がいいのか?」
「うん。女王陛下は起きてほしそうだし、できれば生きて罪を償ってほしい。」
ミツキが腕を組んで考え込んでいる。

女王陛下がヴァレリーを揺らすと、ヴァレリーが腕に大事そうに抱えていた包みから、何かが転がった。
よく見るとそれは、すでに干からびてミイラになった子供だった。
私は何とか悲鳴を押し殺した。
「魔力が尽きて、時を止めていた魔法が消滅でもしたんだろう。」
ミツキがなんでもないことのようにつぶやくと、女王陛下がミイラを抱えて、号泣した。
レオナーさんは困ったように、オロオロしながら女王陛下とヴァレリーを交互に見ている。

すっきりしない気分。
子供は無理でも、ヴァレリーだけでもどうにかならないかな?
女王陛下が見ていられない。

ミツキがヴァレリーの方に手をかざすと、ヴァレリーと子供を光包んだ。
「どうするの?」
「少し待ってろ。」
ミツキは真剣だったので、黙って待つことにする。
きっとヴァレリーも子供も大丈夫だ。
だって、ミツキがやる気になってくれたんだから・・・たぶん。

しばらくして光が完全に消え去ると、ヴァレリーに変化はなかったけど、子供はミイラから生きてる人間に変わっていた。
女王陛下はさらに抱きしめると、痛かったのか子供が泣き始めた。
ほんとに生きてるんだ。
慌てて女王陛下があやしている。

「あっちは?」
ヴァレリーの方を指さす。
「魔力は補充した。しばらくしたら目覚めるだろう。」
ミツキすご〜い。
何でもできそうだね。
今更ながらにすごい精霊が私の半身なんだな。

ヴァレリーは医務室に運ばれ、目覚めるまで監視がつく。
子供はリオの弟として正式に迎えられた。
ミニチュア版リオって感じでそっくりだから、異論はでなかった。









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