妖魔の討伐隊で亡くなった人及び、妖魔に襲われて亡くなった街の人の葬儀が街の跡地で行われた。
女王陛下、レオナーさん、リオ、カール殿下や、残っている近衛騎士ほぼ全員と貴族も多く参加している。
ザクセンさんはあれから訓練には参加しているらしいけど、葬儀には参加していない。
謁見室で別れて以来、私はザクセンさんには会っていない。
会ったら、まだどんな顔をすればいいのかわからない。


葬儀が終わって、部屋まで帰ってきてすぐに雨が降り始めた。
ぼんやりと雨を見ていると、アレンが足元にすり寄ってきた。
「沙羅なんか最近元気ないな。何かあったのか?」
「何にもないよ。ちょっと疲れてるのかも。」
アレンを抱っこすると、とても温かくてほっとした。

リンがいれてくれたお茶を飲みながら、考えないようにしていても、ついついザクセンさんの事を考えてしまう。
「ザクセン様が・・・。」
リンの言葉で、持っていたティーカップを落としそうになった。
焦ってティーカップをテーブルに置いたから、嫌な音がした。
リンとアレンは驚いていたので、私はできるだけ落ち着いて、リンに話の続きを促した。
「ザクセンさんがどうかしたの?」
「はい。亡くなった近衛騎士の家に1軒ずつ謝罪に回ってるそうです。」
「そう。」

ザクセンさんらしいな。
きっとまだ責任を感じて、自分を責めているんだろう。
でも私は、ザクセンさんに襲われた件は、あれはもうザクセンさんのせいじゃないと思ってるし。
ザクセンさんのことをまだ好きかといえば、好きだと言える。
もう後悔はしたくない。
ザクセンさんが死んだかもしれないと思って、やっとザクセンさんが好きだって、失いたくないって気づいたんだから、その気持ちだけでもザクセンさんに伝えよう。
ザクセンさんには拒否されるかもしれないけど。

「ザクセンさんは城内にいるかな?」
「謝罪も一通り済んだと聞いていますから、たぶん雨のかでも訓練場で訓練していると思いますけど、どうかされましたか?」
「うん。ちょっとザクセンさんに話したいことがあって。」
「じゃあ、呼んできましょうか?この雨ですから、沙羅様まで雨にぬれることもないでしょう。」
「・・・うん。じゃあ手が空いたら来てくれるように頼んでくれる?」
「わかりました。」
リンが頷いて、すぐに頼みに行ってくれたので、アレンと2人なった。

「沙羅、抱っこ。」
上目づかいにアレンが言った。
どうやらリンがいる間は我慢してたらしい。
アレンは妖魔の討伐終了後も黒猫を演じている。
私はアレンを抱っこして、頭を撫でると、満足そうだ。
「アレン、いつもありがとう。」
アレンはちょっと不思議そうな顔をしている。
アレンにはついてきてもらって本当によかった。
ここにいてくれるだけで、慰められている気がする。
「オイラ、沙羅の役に立っているか?」
「うん。とっても。」
私が笑うと、アレンは満足そうだ。



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しばらくしてリンがザクセンさんと一緒に戻ってきた。
ちょっとザクセンさんが痩せたように見えた。
「ザクセンさん、わざわざすいません。座ってください。リンとアレンはちょっと席を外してくれるかな?」
「わかりました。何かあったら呼んでくださいね。」
リンは頷くと、私の膝の上から離れようとしないアレンを抱っこして、部屋から出ていった。
ザクセンさんが私の向えの椅子に座った。

「ちょっと痩せたんじゃないですか?」
「そうかもな。・・・・沙羅はかわりないか?」
「私は普通ですよ。」
「そっか。」
会話が続かない・・・。
ザクセンさんは前にみたいに笑ってくれないし、何だか話しにくいなぁ。
こんなところで告白って、ムードないよね。

「もしかして、忙しかったですか?」
「いや、全然。」
「あの・・・。」
言いかけたけど、やっぱり言いづらいよ。
何て言ったらいいの?

「沙羅、あのな・・・。」
ザクセンさんが何かを言う前に口の前に手をかざして、止めた。
「私に先に言わせて下さい。」
ザクセンさんが頷いたので、手をどける。
「・・・私は、・・・・ザクセンさんが好きですよ。」
「そうか。」
もっとびっくりされると思ったのに、拍子抜けする反応。
私の一世一代の告白が、こんなにあっさりと・・・・。
「沙羅は、アレンもリンもリオ様も好きだろう?」
えっ!?
だからそういう意味じゃないんだけど・・。
私の言い方が悪かったかな?

「あのですね・・。そうじゃなくて・・・。」
うぅ、何て言ったら伝わるの?
「だからですね。私はザクセンさんが好きなんです。他の人と一緒じゃなくて・・・。」
ああもう、ザクセンさんの鈍感!!!!
この乙女の一大決心を気づけよぉ!

「俺は沙羅の事が1人の女として好きだ。お前がカイエンの事を好きだとしても。この前のことはさすがにカイエンに隠しておくわけにはいかないから、俺から伝えようと思っている。」
目が点になってしまった。
誤解されてるし・・・。
ザクセンさんのバカバカバカバカ。
「カイエンにはさすがに何発か殴られるが、自業自得だからな。」
ザクセンさんを睨んで、テーブルを叩くと、ザクセンさんがギョッとしている。

「私は、カイエン様じゃなくて、ザクセンさんが好きなんです。私の話聞いてましたか?」
ついつい口調に怒りがにじみ出てしまう。
「ザクセンさんが私の事を好きじゃなくても、私は好きなんです。妙な誤解はしないで下さい。」
「俺!?」
ザクセンさんはかなり驚いている。
そんなに驚かなくても、ほんとに話を聞いてなかったんじゃないの?

「てっきりあの件で嫌われたかと思ってた。」
「嫌いになってないって言ったじゃないですか。」
「俺ではなく、カイエンの馬に乗ってただろう?」
「あれは、何となくザクセンさんに頼みづらくて・・・。だってザクセンさんものすごく責任感じて話しづらかったし・・・。」
なんだか色々誤解されてたんだな。
もしかして両想い?
さっきザクセンさんは私の事好きって言わなかった?
誤解されてたことの方が気になって、スルーしちゃったけど。

「あの・・・ザクセンさん、えっと、私たちって両想いじゃないですか?」
「・・・そう言われれば、そうだな。」
なんだか間の抜けた会話だな。
何かさっきので喜びも半減な感じで。

「じゃあ、これからどうしましょう?」
両想いだったら、ねぇ・・・。
互いに顔を見合わせたら、笑いがこみあげてきた。
私が笑うと、ザクセンさんも笑った。
ザクセンさんが笑ったのって、ひさびさに見たな。
やっぱり笑ってるザクセンさんが一番好きだ。

ザクセンさんが急に立ち上がったから、私も立ち上がると、抱き寄せられた。
顔が赤くなる。
「沙羅はほんとに俺でいいのか?」
「何度も言わせないで下さい。ザクセンさんがいいんです。」
ほんと何回言わせたら、気がすむわけ?
さらに文句を言おうと思って、俯いていた顔を上げると、ザクセンさんの唇が私の唇に重なった。
そのままザクセンさんの舌が、歯列をなぞり、舌を絡めとって翻弄する。
何度も角度を変えて、私の唇を貪るようにキスされた。
キスだけでどうにかなってしまいそう。
思わず声が漏れる。
意外とキス上手いんだ。

唐突にザクセンさんの唇が離れたので、名残り惜しくてザクセンさんを見ると、ザクセンさんを私から引き剥がしたらしいミツキが立っていた。
あっ、見られたよね?
ミツキなんか怒ってるっぽい。
次の瞬間にはザクセンさんは消えてしまったから、ミツキにどこかに送られたのだろう。
いったいどこに送ったのかな?
変なとこじゃないよね?
あとで聞いたら、豪雨のまっただ中の訓練場に送られと教えてくれた。








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