ーミツキ視点ー


闇が支配する空間、闇の奴と情事をかわすときは、いつもここだった。
闇の奴がその為だけに作った空間。
俺と奴しか入れない空間。
ここに来れば、奴は遅かれ早かれやってくるだろう。
俺はただ待っていればいい。
ゆっくりと目を閉じて、立つ。


ほどなく奴はやってきた。
俺を見て、うれしそうに笑っている。
いったい何がうれしいんだか、さっぱりわからん。

「やっと戻ってきてくれたのね。戻ってきてくれると信じていたわ。」
微笑むと、俺の肩に顔を埋めた。
信じるか、何を根拠にそんなことを考えていたのか、理解に苦しむところだ。
自意識過剰にもほどがあるだろう。
でも今は我慢してやる。

「フィシスの一族を捕まえるように指示したのは、おまえか?」
優しく髪を撫でながら、耳元で囁くと、満足そうに微笑んだ。
「私はただ、魔法使いにあの娘を捕まえるように言っただけよ。フフッ、そしたら勝手にみんな殺しちゃったの。馬鹿な連中。あなたもそう思うでしょう?」
「・・そうだな。」
俺は油断させるために相づちをうつ。
勘違いしているから、ペラペラ話してくれそうだ。

「あの魔法使いったら、子供を生き返らせてやるって言ったら、簡単に言うことをきいたわ。さすがにあなたが異世界にあの娘を送ったときは戸惑ったけど。人間にしてはそこそこ強いから、異世界から娘を連れ戻すこともできたし。本当にあなたがあの娘を異世界に送ってしばらく眠りについたときは、狂ってしまいそうだったわ。でも戻ってきてくれたから、全て許してあげる。」
微笑む女に怒りがこみ上げてくる。
許す?
おまえが俺を許すだと?
ふざけるにもほどがある。
でもまだ聞きたいことがある。
まだ我慢だ。
必死に理性に歯止めをかける。

「その魔法使いはどうした?」
「異世界に干渉した反動で、魔力が尽きて眠ってるわ。一生あのままかもしれないわね。あなたでも眠らざるえなかったのに、人間が無事なわけないでしょう。」
何が面白いのか、心底面白そうに笑っている。
人間の命なんて、これっぽちも考えていないだろう。
まあ俺もフィシス以外の人間はどうでもいい。
魔法使いの処分はとりあえず保留だな。
こいつに踊らされただけだな。

「フィシスを捕まえて、何をしたんだ?」
怒りを感じられないように、優しく言うのにかなり気を使った。
「フフッ、聞きたいの?」
いっそう妖艶な笑みを浮かべた奴に、嫌な予感がした。
「あの娘が好意を持ってた男に襲わせたの。気持ちがよかったわ。」
奴の笑い声が空間に響きわたった。

腸が煮えくり返りそうで、どうにかなりそうだ。
俺はやはりこいつを許さない。
跡形もなく消滅させてやりたいが、それはできない。
見つけたフィシスの様子は、確かにおかしかった。
あのときフィシスのそばを離れた自分の迂闊さを、呪いたくなる。
フィシスのそばにいれば、そんなことにならなかったのに。
もう我慢も限界だ。



奴を抱き寄せると、奴は俺の口に唇を寄せてきた。
唇が重なった瞬間に、俺は力を解放する。
俺の光の力が、奴の口から体内に入って、暴れ回る。
奴はギョッとして、離れようとしたけど、俺は抱く力にさらに力を込める。
体内で暴れ回る光の力は、奴にとって毒以上だ。
目を見開いて痙攣し、力なく倒れるまで、俺は力を注ぎ続けた。
このまま放っておけば、体内の光の力に蝕まれて、消滅する。
それでは、この世界の闇のバランスが崩れて、世界が崩壊に向かってしまうから、それはできない。
倒れた奴の口に手を当てて、光の力を回収すると同時に、闇の力も光に包み込んで吸収する。
半分ほど力を吸収すると、妖艶な美女から、幼い子供に戻ったので、ストップした。
これくらいなら、悪さもできないだろう。
せっかくだし記憶も消しておく。
もうこいつは無害だ。



空間を維持するだくの力もなくなったので、空間に亀裂が入った。
その時を待っていたらしい水の奴が現れて、倒れた闇の奴を見下ろした。
「どうした?俺と戦いにきたのか?」
少し力を使ったが、まだ戦えるだけの力はある。
警戒しつつ睨んだが、奴は首を横に振った。
「いいえ。戦いにきたわけではありません。この方を迎えにきただけです。あなたの呪縛からとき放たれたこの方を見守ることなら、私にも許されるでしょう。」
静かにつぶやくと、闇の奴を大事そうに抱いて、消えた。
再びフィシスに手を出すか、俺に何か仕掛けない限り、好きにすればいい。



闇の奴の不思議な気配を辿ってみると、クラウドとかいうやつがいた。
そのうち報復してやろうと思っていたが、フィシスが望んでいなかったから、放置しておいた。
クラウドからは闇の気配がするから、どうやら闇の半身になっているらしい。
どうりで闇のやつに攫われたフィシスの行方がわからなかったわけだ。
闇の奴も半身を持って、力が強くなっていたのか。
さて、どうしたものか。

「おい、おまえ。」
俺の声で、やっと俺に気がついて、こっちを警戒しながら見た。
「だ、誰だ?」
俺が見えていないらしい。
ああ、迂闊にも見えるようにしていなかった。

俺が姿を現すと、剣に手を伸ばしている。
たかが人間の剣で俺に向かうなんて、命知らずもいいところだ。
「別におまえに何かしようとは、今は思っていない。闇の奴は眠りについたぞ。おまえは奴の半身だろう。これからどうするんだ?」
こんな奴がどうなろうと、どうでもいいが、ただの気まぐれ。

「半身だと?俺があの女のか?」
気づいていなかったとは・・。
「そうだ。奴に名前を付けなかったか?」
「名前・・確か、適当に呼べと言われたから、つけたが。」
「名前を付けたら、最後まで責任を持て。」
奴が何か言う前に、闇の奴の場所に、クラウドを送った。
水の奴は嫌な顔をするかもしれないが、俺の知ったことじゃない。
あとは魔法使いだな。










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