王都から着たときよりザクセンさんが増えたから、1頭馬が足りなかったため、騎士の人たち全員でジャンケン大会をしているのを、見ていた。
みんな真剣で、白熱している。
早々にカイエン様とザクセンさんは勝ち抜けした。
負けたかわいそうな騎士が1人決定したので、みんな馬にまたがり始めた。
帰りはかわいそうな騎士に合わせて、ゆっくりペースで帰ることになる。

カイエン様が馬に乗って、私の方にやってきた。
来るときはカイエン様に乗せてもらったけど、帰りはどうしようか。
なんとなく自分からは頼みづらい。
「帰りはどうされますか?私の馬でよろしいですか?」
馬上からカイエン様が聞いてくれた。
リンの馬には無理だし、ザクセンさんの馬は気まずいから論外。。
やっぱりカイエン様に乗せてもらおう。
「お願いします。」
頷くと、手を差し伸べてくれたので、その手を取ると、一気に馬上まで引っ張り上げられた。



一行が出発した。
カイエン様と私の馬は先頭、その横にリンの馬、最後尾にザクセンさんの馬。
「ザクセンの馬に乗らなくてよかったのですか?」
「はい。乗せてもらうの迷惑でしたか?」
「いえ。私はうれしいですが。ザクセンと何かありましたか?」
「何にもないですよ。」
笑顔が引きつってしまう。
鋭いな。
でもカイエン様に相談できる話じゃないし。
私って相談できる人いない・・・。
リンに話すと、ザクセンさんと揉めそうだし。
ルイーゼなんて、自分のお兄さんの相談なんかされたくないよね?
ティアナなんて、なんだか別の方向に話が進みそうな気がするし。
ミツキは・・・・また危険なことになりそうな気がする。

「ではまだ私にもチャンスはありますね。」
カイエン様が極上の笑みを浮かべてつぶやいた。
「えっ!?」
私は思わず変な声を漏らしてしまって、カイエン様に笑われた。

「ザクセンから少し話は聞きましたが、大変だったそうですね。」
「はい・・・。」
「無事でよかったです。」
「心配をおかけして、すいませんでした。」
「いえいえ。無事に帰ってきていただけたのでいいんですよ。あの時私があなたの傍にいれば・・・。」
カイエン様優しいな。
でも精霊の力だからカイエン様がそばにいてもどうにもならなかった気がする。
そんなことは言えないけど。



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王都に戻ると、私とカイエン様とザクセンさんは謁見室に行かされた。
女王陛下が待っているからと、部屋に戻る時間もない。
謁見室には女王陛下と、その後ろにレオナーさんと、リオと見たことない紳士。
誰だろうと思っていると、カイエン様がこっそり、ザクセンさんとルイーゼのお父さんだと教えてくれた。
言われてみれば、ザクセンさんに似ていなくもない。

私たちは女王陛下にひざまずく。
「よく無事に帰ってきてくれました。伝令の騎士からだいたいは聞きました。カイエン、ザクセン、沙羅、ご苦労でした。騎士たちには交代で休養させて下さい。」
「わかりました。私たちはこれで、失礼します。詳しい報告は書面で提出します。」
カイエン様が立ち上って、扉に向かおうとすると、ザクセンさんが伏せていた顔を上げた。
「女王陛下、俺は・・。」
「ザクセン自分を責めてはいけませんよ。罪の意識があるなら、これまで以上に騎士の職務に励みなさい。いいですね。」
女王陛下の有無を言わせない威厳に、ザクセンさんは黙り、一礼するてカイエン様の後に続いた。
私も2人の後について謁見室から出ようとしたら、レオナーさんに呼び止められた。
「あとでお話があります。部屋までお伺いしてかまいませんか?」
私はうなずいて、部屋を出た。
話って何だろう?



カイエン様もザクセン様も事後処理があるらしく、私は2人と別れて自分の部屋へ。
戻ってすぐに浴室に行くと、マリーさんが用意してくれたのか、湯船には温かいお湯が貯められていた。
まだ首にはザクセンさんに絞められた感触が残っている。
生々しく記憶が蘇ってきたので、そのまま湯船に飛び込んだ。
湯船はとても気持ちよくて、ほっとしたのは一瞬で、すぐに嫌なことを考えてしまう。
1人になるとだめだな。
すぐに忘れられそうもない。



着替えると、リンがアレンと部屋に来ていた。
2人だけで、女王陛下にアレンの件で呼び出しを受けていたらしい。
騎士たちは秘密にしてくれると約束してくれたけど、女王陛下に伝えないとまずいとカイエン様が判断して、報告したらしい。
リオはフォローしてくれたらしいけど、アレンをつれていくのを決めたのは私なのだから、私も声をかけてくれたらよかったのに。
カイエン様は私には何も言ってくれなかったのに。
自分だけ蚊帳の外にされて、ちゃっと悲しい。
アレンは今までおとなしい黒猫を演じていたおかげと、今回の活躍も考慮されて、今まで通りいられることになった。
「長い風呂だったな。」
アレンが欠伸をしながらつぶやいて、私の足元に身をすり寄せた。
そんなに長かったかな?
かなり擦ってたから時間かかっちゃったかな。
アレンを抱き上げると、アレンが鼻をヒクヒクして匂いを嗅いだ。
「やっとザクセンの匂いとれたな。」
「えっ!?ザクセンさんの匂いしてた?」
声が上ずってしまった。
「うん。かなりザクセン臭かった。いなくなった間いったい何をしてたんだか。」
アレンにはどこまでばれているのだろうか・・・。
とりあえず笑ってごまかすと、リンに不思議そうに見られた。









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