不意に後ろから腕を掴まれてびっくりしていると、ザクセンさんだった。
もしかして正気に戻った?
期待を込めてザクセンさんを見たけど、雰囲気はさっきのまま。
どうしたんだろう?
様子を窺っていると、ザクセンさんに力任せに押し倒されて、床に頭をぶつけた。
痛い・・・。
起き上がろうとするけど、ザクセンさんが上から押さえつけられて動けない。
いったい何で急に?

頭をさすろうとしたけど、今度はザクセンさんの両腕が私の首に絡み、締め付け始め呼吸が苦しくなった。
声も出せない。
苦しい・・・。
どんどん首を締め付ける手は強くなってくる。
どうしてこんなことを?
あの精霊のしわざ?
やめて。
ねぇ、やめてよ。
あなたの目には私はどう映っているの?
足と手ををバタバタ動かしたけどザクセンさんはビクともしない。

まさかこのまま・・・・。
冗談でしょう?
正気に戻ってよ。
こんなところで死ぬなんて、絶対嫌。
嫌、嫌だ。
やめてよ。
私の心の叫びは届かない。

もう、だめ。
段々気が遠くなってきた。
私このまま死ぬのかな?
ザクセンさん・・・。

頭の中で闇の精霊の嘲笑が聞こえた。
助けなんか誰も来てくれない。
ミツキ・・・。
誰か・・・。
死を覚悟して目を閉じた。

妖魔の戦いででた虹色の光が私とザクセンさんを包む。
首を締め付けていたザクセンさんの手がゆるんだので、一気に空気が肺に入ってきてゴホゴホとむせた。
目を開けると、正気の目をしたザクセンさんと目があった。
ザクセンさんは状況にギョッとして、すぐに私から離れた。

ザクセンさん正気に戻ったよね?
でも・・・・・。
どうせならもっと早く戻ってほしかった・・・。
苦しかった。
死ぬかと思ったよ。
「・・・・沙羅・・・俺・・・。」
ザクセンさんも言いづらそうだ。
それはそうだろう。
正気に戻ったら、私を襲っているところなんて。
ザクセンさんが悪いわけではないけど・・・。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



しばらく沈黙が続いた。
「正気にもどりましたか?」
声が震えるかもしれないと思ったけど、意外と普通に話せてほっとした。
「ああ、どうしてこんなことになってるのか聞いてもいいか?」
「私の方が聞きたいくらいでもあるんですけど、闇の精霊に攫われてきて、正気を失ったザクセンさんに会って、こうなりました。」
ザクセンさんは俯いて私の方を見ようとはしなかった。
「・・・悪かった。」

「すっごく心配したんですよ。討伐隊は全滅って聞いて。強いって言ってたくせに。」
「・・・・それも悪かった。」
ザクセンさんにはいつもの切れもない。
でもいつまでもこうしているわけには、いかない。
ここからどうやったら出られるんだろう?
さっさとこんな所から出たい。
きっとみんな心配してるよね。


突然ザクセンさんがガバッと後ろを振り返って、私を庇うように立ったので、私はザクセンさんの後ろから背後を覗き込む。
そこにいたのはクラウドだった。
いつからそこに?
ザクセンさんが近づいてくるクラウドを睨んでいる。

「この前はすまなかった。あんなことを言うつもりじゃなかった。」
クラウドは俯いていて表情は見えない。
「どうしてここに?」
「俺はあの女と共にいるから・・・・。出口まで案内してやる。ついてこい。」
私がついていこうとすると、ザクセンさんに止められた。
「そいつは以前沙羅を狙ったやつだろう。信用できるのか?」
「今は信用するしかないと思います。他に方法もないですから。」
しばらく考え込んでいたけど、頷いたので、またクラウドの後に歩き始めた。

何度も曲がって、迷子になりそうな道だった。
しばらくすると明りが見えてきて、外に出れた。
ここがどこかわからないけど、さっきのところよりは安全に思える。
「ありがとう、クラウド。」
「いや、礼なんていい。気をつけろよ。あいつはまたお前を狙ってくるぞ。」
「私は狙われる覚えなんて全然ないんだけど・・・。」
「俺も理由は知らない。」
「沙羅、行くぞ。」
ザクセンさんが歩き始めたので、後を追っかけど、クラウドがついてこない。
「一緒に行かないの?」
「俺は行けない。まだやることがある。」
「わかった。じゃあまたね。」
笑って手を振ると、クラウドも振り返してくれた。
クラウドは誤解も解けたみたいでよかった。
またいつかクラウドに会えるかな?








前のページ  「精霊の半身」目次ページ  次のページ

inserted by FC2 system