今回の移動は馬。
馬に乗ったことがなかったので、カイエン様の馬に一緒に乗せてもらっている。
リンだと私より小さいから、私が乗るとうまく動かせなかった。
私はカイエン様の前に乗って、後ろのカイエン様が馬のたずなをひいている。
常にカイエン様の腕が私に触れているし、ちょっと油断したら、カイエン様の胸にもたれかかってしまうから、ずっと緊張してる。
カイエン様をたまにチラッと見るけど、カイエン様は平然としている。
もしかして意識してるのは、私だけ?

「辛くないですか?」
「大丈夫です。」
ずっと馬に揺られてると、さすがにお尻が痛くなってきた。
「どれくらいで着きますか?」
「夕方までには着きますよ。夜には襲撃があるかもしれません。それまでには着きたいですから。」
今日も襲撃あるのかな?
ミツキに頼んだら、一瞬で街まで着けそうだけど、そこまでミツキに頼りたくない。
できることは自分でしたい。

「街から帰ってきた騎士の人は大丈夫なんですか?」
「・・もういません。」
いない?
それって・・。
「傷は致命傷でした。城門の騎士に知らせたあと、死にました。王都まで何とか気力で戻ってきたのでしょう。」
かすかにカイエン様のたずなを持っている腕が振るえている。
「行かせたことを後悔しているのですか?」
「・・せめて私も行くべきでした。」
見上げたカイエン様の顔は、泣きそうだった。
部下の半数を失ったのだから、辛くないはずない。
「辛かったら、何でも言って下さい。心の中でためてるより、すっきりしますよ。私は頼りないですけど、話を聞くくらいできます。」
カイエン様の手に自分の手を重ねた。
こうすれば、少しは落ち着くかも?
「亡くなった騎士たちの敵を討ったら、慰めてもらえますか?」
「はい。私でよければ。今じゃなくていいんですか?」
「今はちょっと・・。」
カイエン様が周囲を見て、曖昧に笑った。
隣にはアレンを膝にのせて馬に乗るリンや、ほかの近衛騎士たちもいる。
部下の前では泣けないからかな?
カイエン様にも隊長の意地があるよね。
カイエン様は、みんな死んだと思ってるけど、私は生きてるって信じてる。
きっと大丈夫だよ。



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でも街に着いた瞬間、私の期待は粉々に砕け散った。
街だったところは、瓦礫の山だらけ、建物と呼べるものすらなく、ほぼ平地で隠れ場所もない。
すでに人の気配はない。
ちょっと前まで街だったとは、到底信じられない。
カイエン様とリンも唖然としている。

「街の人は?」
「最初の襲撃を逃れた人は、次の襲撃前にほとんど逃げているはずです。」
死体が見あたらないから、きっとみんな生きてるよね?
でも・・どこにいるの?
いるならでてきてよ。
私が街の中に入ろうとすると、カイエン様に手を捕まれた。
「どこに行かれるんですか?」
「誰かまだ生きてるかもしれないでしょう。探しに行こうと思って。」
カイエン様は首を横に振る。
「街には誰もいませんよ。ここからだってわかるはずです。」
カイエン様は覚悟していたのか、落ち着いている。
「でも、もしかしたら。」
「無駄です。じき夕方になりますから、離れないで下さい。」
私がうなずくと、カイエン様は手を離して、騎士たちの方に行った。
馬をつないできたリンも辛そうな顔をしているけど、探しに行こうとはしない。
あきらめきれないのは、私だけかな。



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夕日が沈む。
騎士たちは薪を囲んで、武器を片手に緊張した面もちで、待っている。
今日妖魔がくるとは限らないし、夜は長いから、私は彼らをよそに、片隅に座ってぼんやりした。
リンとアレンも隣にいてくれた。
「沙羅様、寒くないですか?」
「大丈夫。」
寒さとかは、半身のおかげか感じなくなってる。

「・・あいつ、ほんとに死んじまったんだな。」
アレンがぽつりとつぶやいた。
死んじゃったのかな?
まだ信じられないよ。
またいつもみたいに、笑ってヒョッコリ出てきそうな気がするよ。
ザクセンさん・・。
胸が痛いよ。
今気づいたけど、私ザクセンさんが好きだよ。
そばにいてほしいよ。
もっと話したかったよ。
これが恋なのかな?
もっと早く気づいていたら・・。
告白しても、困らせるだけだったかもしれないけど、それでも・・。
頬を伝って涙がこぼれてきた。
止めようとしても止まらない。

「沙羅様。」
リンが心配そうに見ている。
「沙羅。」
アレンも心配そうだから、早く泣きやまないといけないのに、止まってくれない。
ザクセンさんのことを思って泣いているから、ミツキは呼べない。
突然後ろからカイエン様に抱きしめられた。
「そんな風に泣かないで下さい。見ていられない。」
優しい声だった。
私はカイエン様に向きなおると、カイエン様にしがみついて、声をだして泣いた。
カイエン様は私の背中をずっと撫でていてくれた。

落ち着いてから、慰めるつもりのカイエン様に、自分が慰められて、恥ずかしくなった。
周りの騎士たちにも変に思われたかも。
泣きやんだけど、カイエン様の胸から顔が上げられない。
「落ち着きましたか?」
「はい。ありがとうございました。」
「もし私が死んでも、あなたは泣いてくれますか?」
驚いて顔を上げると、カイエン様と目があった。
「旅の間に何があったかは知りません。あなたがザクセンを好きになったのも、仕方ないかもしれません。でもあなたへの気持ちなら誰にも負けないつもりです。・・こんな時に言うのは卑怯かもしれませんが、私はあなたが好きです。」
まじまじとカイエン様を見てしまった。
「生きて帰れたら、私と・・、やっぱり帰ってからにします。必ず帰りましょう。」
告白なんて初めてされたから、どうしていいかわからない。
気持ちはとってもうれしいけど、今はその気持ちに答えられない。
「私は・・。」
「今は返事はしないで下さい。」
「わかりました。」
私たちの周りは騎士だらけ、みんなにまる聞こえだよね。
カイエン様ももう少し、時と場所を考えてくれたら・・。








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