ケーキを完食して、休憩していると、女王陛下の使いの侍女さんが来た。
「すぐに女王陛下がお会いしたいそうです。来ていただけますか?」
有無を言わせぬ迫力のある年配の侍女さんだった。
私が頷くと、私の手を引いて強引に歩き始めた。
そんなに急がなくても・・・。
女王陛下はいったい何の用だろう?
ケーキもう食べてくれたのかな?
リンも私の後ろからついてきている。

そのまま謁見室ではなく、女王陛下の私室に連行された。
謁見室と同じくらい豪華な装飾の部屋。
さっきの侍女さんは、扉の前まで案内しただけで、戻って行った。
「おはようございます、女王陛下。」
部屋の中央に座って黙々とケーキを食べている女王陛下のそばにいくと、女王陛下は、1人でケーキ1ホールをカットもせずに食べていた。
すでに半分ほど減っている。
あれ全部食べるつもり?
それは止めた方が・・・。

「おはよう、沙羅。早速頂いていますよ。このケーキおいしいですね。」
口いっぱいにケーキを頬張るから、口の周りは生クリームだらけ。
女王陛下の威厳も今はない。
「ありがとうございます。気に入っていただけましたか?」
「ええ。とっても。」
止まらずに食べ続けている。
そのまま完食してしまう勢いだ。

「御用と伺ったのですが・・。」
「ケーキのお礼が言いたかっただけです。また作ってくださいね。」
「はい。」
それだけだったんだ・・・・。
あんなに急がされたから、もっと急用だと思ったのに。
女王陛下って今はかなり暇なのかな?
2日前まであんなにバタバタしてたのに。
ザクセンさん達どうなったんだろう?
大丈夫なのかな?
「・・・・あの、ザクセンさん達から何か連絡はありましたか?」
持っていたフォークを置くと、一瞬真剣な顔になったけど、すぐにまた食べ始めた。
「まだ何の連絡もありません。すぐに無事に戻ってくるでしょう。」
もしかして自棄食い?
女王陛下も心配してると思うし、食べて忘れるとか?



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女王陛下の部屋から、騎士の訓練場に向かった。
私とリンで1箱ずつケーキを運んでいる。
騎士たちにも早く差し入れを持って行かないとね。
訓練場には騎士たちはいるけど、カイエン様はいない。
私達に気がついたカール殿下が、こちらにやってきた。
今日も騎士に交じって訓練をしていたみたい。

「おはようございます、カール殿下。カイエン様知りませんか?」
「おはよう、沙羅。カイエンは城の巡回中だよ。騎士今は半分しかいないから、カイエンも他の騎士と同じように仕事しないとね。」
「そうですか。」
じゃあ仕方ないね。
ケーキどうしようかな。
カール殿下は騎士じゃないし、他の騎士の人ってそこまで親しくないんだよね。
リンから適当な人に渡してもらおうかな。
「ところで、その箱はなんだい?」
「これですか?騎士の人たちに差し入れのケーキです。」
カール殿下の目が変わった。
獲物を前にした肉食獣の目。
ちょっと後ずさってしまった。

「どうかされましたか?」
後ろからカイエン様の声がして、カール殿下の目も元に戻った。
ああ、怖かった。
みんなどうしてあんなに変わるんだろう。
カール殿下もお菓子に目がないのかな?
「おはようございます、カイエン様。騎士の人たちに差し入れのケーキです。みなさんで召し上がってください。」
ケーキの箱をカイエン様に渡す。
「これも沙羅様が作ってくださったのですか?」
「はい。」
「開けてもかまいませんか?」
「どうぞ。」
箱を開けると、訓練をしていた騎士たちも寄ってきて、歓声を上げている。
ここでも好評のようだ。
「これ食べてもいいんですか?」
「はい。」
騎士たちは躊躇わずに、食べ始め、あっという間に2箱なくなった。
フォークがないから、手づかみだけど、誰もそんなことは気にしていない。
なんかすごい。
もちろんカール殿下もそうだ。
「美味しかったです。ありがとうございました。」
「いえいえ。」
騎士たちは訓練に戻り、カイエン様とカール殿下だけになった。

「沙羅はケーキを作るのがうまいね。いつか僕だけの為に作ってほしいな。」
個人でほしいんだったら、今度はカップケーキみたいなのがいいかな?
カール殿下ってお菓子好きなんだな。
「あんまり食べると太って、女性にもてなくなりますよ。」
「女性にもてなくても、沙羅さえいてくれたいいよ。」
「それは無理です。」
そういう冗談はやめてほしいなぁ。
カール殿下って顔はいいからね。
冗談でも信じちゃいそうになるよ。
そういえば、まえにカイエン様と決闘したとか何とかあったっけ。
でも最近仲良さそうだし、そんな風に見えないんだよね。
ただ私が今まで周りにいたタイプと違うから、新鮮に見えただけだと思うけど。

「沙羅様、是非また作ってくださいね。先日剣を買われたとか、ちょうど私が留守の時だったのが残念です。一緒に見に行けたらよかったのですが。」
カイエン様と一緒に行ったら、いいのを選んでもらえたかもね。
「ちょうどいいものが見つりました。カイエン様はお忙しいから、わざわざ一緒に行っていただくなんて申し訳ないです。」
「そんな全然大丈夫です。」
カイエン様が力強く言い切った。
どうしたんだろう?
もしかして私と街に行きたかっとか?
まさかね。
だって、最近のカイエン様は全然そんな風に見えないし・・・。
私なんてきっと・・。
カイエン様にとってキスなんて、日常的なのかもしれない。
ちょっと凹む。
「失礼しますね。訓練中お邪魔しました。」
私は逃げるように、部屋に戻る。



「どうかしたんですか?」
心配そうなリン。
「何でもないの。ちょっと気分が悪くなっただけ。」
リンに心配かけちゃだめだ。
私がただ、1人で盛り上がってただけだし。










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