私たちは庭園を1周して、厨房に帰ってきた。
そろそろプリン冷えたかな?
マリーさんのお見舞い用のプリンとリンとアレンの分を取り出して、あとはそのままおいておく。

「残りはお裾分けなので、食べて下さいね。」
言った途端、コックさんが我先にと、取りに来た。
1人1個ずつ作っといてよかった。
今回も料理長が一番だった。

「どうですか?」
プリンみたいなお菓子はないから、どう思うかな?
「フニャフニャして、変わってるな。味はいいが、変な感じだ。」
変か・・。
「美味しくないってことですか?」
「美味しくないわけじゃないが。」
はっきりしないな〜
微妙なのかな?
他のコックさんたちも複雑な顔。
「こういうのはダメですか?」
「ダメじゃないぞ。今までのお菓子とかなり違って、びっくりしただけだ。」
慣れの問題かな?
「じゃあまた、食べたいと思いますか?」
「そうだな。また作ってくれたら、食べる。」
ふむ。
まぁ、大事なのはマリーさんの反応よ。
トレイにプリンとお茶をのせて、いざマリーさんの部屋へ。



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マリーさんとリンの部屋は、城門から少し入ったところにある建物だった。
てっきり城内に住んでいると思ってたから、びっくり。
城内で働いている女性は、ほとんどここに住んでいるらしい。
建物は簡素な造りだけど、落ち着く感じ。
きょろきょろ見ていると、リンとアレンがどんどん進んでいくので、慌てて追いかける。

ギシギシ軋む階段を上って3階に、マリーさんの部屋がある。
驚くだろうから、先にリンに入ってもらおう。
リンがノックすると、マリーさんの返事がした。
「誰?」
「リンです。お加減いかがですか?」
「だいぶ良くなったわ。入ってちょうだい。」

リンの次に私が入ると、ベッドの上で寝転がっていたマリーさんは、飛び起きた。
「沙羅様!?」
「お邪魔します。寝てて下さい。」
「・・でも。」
マリーさんは顔色が少し悪いくらいだけど、しんどそうでもないし、しばらく話すくらいは問題なさそう。
「これお見舞いです。」
リンが持っているトレイから、プリンとスプーンを1セット取って、マリーさんのベッドサイドのミニテーブルに置く。
「ちょっと変わったお菓子ですけど、具合の悪い時にはいいと思います。」
「沙羅様が作ってくださったんですか?」
「はい。冷えてるうちにどうぞ。」
「では、頂きます。」

マリーさんがプリンを食べ始めたので、リンとアレンにもプリンを渡す。
リンは座って食べ始め、アレンは床に転がってペロペロなめながら食べる。

「どうですか?」
「おいしいですよ。朝から食欲がなかったのですが、これならまだまだ食べれそうです。」
マリーさんはニコニコして、ペロッと1個食べたから、気に入ってもらえたみたい。
コックさんたちの反応がいまいちだったから、心配したけど、作ってよかった。
「リンはどう?」
「おいしいですよ。食感が軽いから、たくさん食べちゃいそうです。」
リンもアレンも完食。

「あの・・、他の侍女には渡されましたか?」
マリーさんはちょっと言いにくそう。
「いいえ。お見舞い用に作ったので、厨房のコックさんたちの分と、これだけです。」
もっと作った方がよかったかな?
「そうですか。では他の侍女には内緒にしてもらえませんか?」
「私は別にいいですけど。」
「他の侍女の方々も、沙羅様のお菓子楽しみにしてらっしゃいますから、知ったら食べたがったでしょうね。」
そうなんだ〜
じゃあ侍女さんたちの分も作ればよかったね。
「食べ物の恨みは怖いですから。」
そんな恨むほどのことじゃないでしょう。
リンは平然としているけど、マリーさんはどこか憂鬱そう。
今まで何かあったのかな?

あんまり長居しても悪いから、みんな食べ終わったし、帰ろうか。
「じゃあ、そろそろ帰ります。ゆっくり休んで下さいね。」
リンが持ってきた物を片づけて、トレイにのせる。
「わざわざありがとうございました。明日には復帰しますから。」
「はい。お大事に。」

私が立ち上がった瞬間、複数の廊下を走る足音が聞こえた。
すごいけど、何かあったのかな? 
足音はこの部屋の前で止まった。
ここに用?
マリーさんを見ると、青い顔をしている。

ノックの音とともに、よく見る侍女さんたちが、部屋に突入してきた。
私たちを見てから、リンの手元の空になった器を見つめる。
なんか怖い・・。
「どうしたんですか?」
「沙羅様、プリンというお菓子を作られた聞いたんですが、まだありますか?」
侍女さんたちが、私を囲むように迫ってきた。
みなさん目が怖いです。
身の危険を感じる。
リンもアレンも私から離れて、見ている。
誰も助けては、くれない。
「・・すいません、もうないです。」
侍女さんたちが、ガックリしているので、申し訳ない気がした。

「また作りますから。プリンならすぐ作れます。」
また今度作ったらいいよね。
侍女さんたちが期待にみちた目で、私を見ている。
もしかして、今から作れって?
その目でまた私に迫ってくる。
怖いよ〜
わかったから、もう許して下さい。

「今から行ってきます。」
私はマリーさんの部屋を出て、再び厨房まで駆け出す。
後ろからアレンとリンも走ってきた。

それから侍女さんたち用にプリンを作って、渡した。
侍女さんは食べ物がからむと、豹変するとわかったから、こんどから気をつけよう。








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