昨夜遅くまでミツキと話していたせいで、すっかり寝過してしまった。
もう太陽は真上近い。
早朝出発予定だからもうザクセンさん達は行ってしまったかな。
欠伸をしながらベッドから下りる。
誰も起こしてくれなかったのかな?

テーブルを見ると、かなり冷めたスープとパンが置いてあるから、リンかマリーさんが持ってきてくれたのだろう。
でも放置って珍しい。
用事でもできたのかな?
冷めていても、今はおなかがすいているから、何でも美味しいや。
食べ終わっても、誰も来る気配がないから、今日は厨房まで自分で持って行こう。
ついでにまた厨房を借りれるように、頼んでおこう。
女王陛下の為と言えば、絶対貸してくれると思う。

お皿をのせたトレイを持って部屋をでる。
上等そうなお皿だから、落とさないようにしないといけないと思うと、ちょっと緊張する。
いつもリンか、マリーさんが、ごはんが入った状態で持ってきてくれるけど、結構な重労働だ。
「沙羅。」
気がつくと、アレンが足下にいた。
今は両手が塞がっているから、抱っこはできない。
「おはよう、アレン。リン知らない?」
「用事で街に行くって言ってたぞ。」
街に用事だったら、昨日言ってくれたらよかったのに。
そしたら一緒に用事も済ませられたのにね。
「今日はまだ誰にも会ってないけど、誰か見なかった?」
「知らない。沙羅、遊ぼう〜」
これ厨房まで持って行った後ならいいかな。
たまにはアレンと遊んであげよう。
遊ぶって、猫じゃらしとかいるかな?
あんまり遊んでなかったから、いざ遊ぶとなるとどうしたらいいかわからない。



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厨房ではコックさん達がお昼の準備で大忙しだった。
「ごちそうさでした。」
「ああ、そこに置いといてくれ。」
料理長が流しを指差したので、流しでお皿をうるかしておいた。
「今日は作らないのか?」
「今日はやめておきます。今道具を注文しているので、道具ができたらまた貸して下さいね。」
「わかった。いつでもこいや。」
「よろしくお願いします。」
料理長はそれだけ言うと、また作業に戻っので、美味しそうな匂いがたちこめる厨房を後にした。

アレンはおとなしく厨房の前で待っていた。
1回厨房に入ろうとしたら、料理長にものすごく怒られたので、それからアレンは入らない。
「どうしようか、アレン?」
「う〜ん。抱っこしてお散歩して。」
「それだけでいいの?」
「うん。」
アレンを抱っこして、庭園の方に向かう。
散歩といえば庭園でしょう。

庭園に向かっていく途中で、やっと侍女さんに会った。
「こんにちわ。マリーさんに今日は会ってないんですけど、知らないですか?」
「マリーなら体調を崩しているので、今日は寝込んでますよ。」
「えっ!?大丈夫なんですか?」
「寝ていれば治るはずですから、心配いらないと思いますよ。」
「わかりました。ありがとうございます。」
侍女さんにお辞儀をして、また歩き出す。

マリーさん大丈夫かな?
そういえばマリーさんや、リンってどこに住んでいるんだろう?
今まで行ったことなかったな。
ちょうどいいからお見舞いがてら、行ってみよう。
お見舞いといえば、何か持って行った方がいいよね。
やっぱり、今日も厨房借りよう。
「アレン、マリーさんの部屋って知ってる?」
「リンの部屋の隣だぞ。」
アレンが知ってて良かった。
これでお見舞いに行ける。
「アレン、悪いけど後で案内してくれない?マリーさんのお見舞いに行きたいの。」
「いいぞ。」
「それから、今からちょっと厨房でお菓子を作りたいんだけど、いいかな?散歩はそのあとでもいい?」
「う〜ん。しょうがないからいいぞ。そのかわり、今日は厨房以外ずっと沙羅と一緒な。」
「ありがとう。」
アレンをギュウッと抱きしめると、嬉しそうだった。



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厨房に戻ると、お昼御飯の用意が一段落したらしく、さっきよりは静かになっていた。
「すいません〜。やっぱりここ貸して下さい。」
「わかった。じゃああっちだけな。」
料理長に言われた片隅だけ、今回は借りる。

今日はプリンを作るつもり。
プリンだったら、食欲がなくても食べれるよね。
牛乳と砂糖と卵は、厨房にいっぱいあるから、遠慮なく使える。
卵と砂糖をよく混ぜて、牛乳を加えて、さらに混ぜる。
混ぜ混ぜ、混ぜ混ぜ。
ここにバニラビーンズがあったらいいんだけど、ここではお目にかかったことがない。
ちゃんと漉してから、容器に入れて、蒸す。
固まらせないトロトロのプリンだから、時間も短いし、ゼラチンもいらない。
蒸しあがったら、冷やして待つ。

これでよしっと。
手のあいたコックさん達が、私を見ていた。
今回もいっぱい作ったから、あとで楽しみにしててね。
「今日は何を作ったんだ?冷やしたってことは、またまえのやつとも違うみたいだな。」
「プリンです。楽しみにしててくださいね。」
料理長にウィンクして、片づけを始めた。
リンがいないから、片づけも1人でやる。



プリンが冷えるまでの間アレンと遊んであげよう。
厨房の前でおとなしく待っていたアレンを抱きあげたところで、リンが帰ってきた。
「お帰り、リン。」
「すいません。沙羅様がお目覚めになる前に戻れると思っていたのですが。」
「いいよ。用事だったんでしょう。」
「はい。」

リンに紙袋を渡された。
何だろう?
「開けていいの?」
「はい。」
リンが頷いたので、紙袋を開けると、昨日注文した口金と型が入っていた。
もしかしてこれを取りに行ってくれてたの?
声をかけてくれたらよかったのに。
起こすのを遠慮してくれたのかな?
「ありがとう。」

「いえ。早い方がいいかと思いましたので。勝手に行ってすいませんでした。マリーさんもいないからどうしようかと思ったのですが。」
「マリーさんには会った?気がついたらお昼になってたし、朝ごはんが置いてあったから、ちょっとびっくりしたけど、大丈夫だよ。」
「マリーさんには、今朝お会いしましたけど、起き上がれないみたいなので、部屋で休んでもらってます。」
かなり具合悪そうだね。
昨日は全然そんな風じゃなかったけど、風邪かな?

「沙羅様はこんなところでどうされたんですか?」
「マリーさんのお見舞いに行こうと思って、プリンを作ってたの。あとでお見舞いに一緒に行ってね。」
「プリン?」
「うん。どんなのかは、あとでのお楽しみ。」
「おい2人とも、オイラのこと忘れてないか?」
アレンが不満そうにしている。
うん、すっかりアレンのこと忘れてたよ。
いい子で待っててくれたのに、ごめんね。








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