謁見室を後にした私たちが訓練場に行くと、数人の騎士が訓練していた。
その中にはカイエン様はいなかったけど、ザクセンさんはいた。
剣を手に、部下の騎士をしごいている最中のザクセンさんは、私たちに気がついて、訓練を中断してくれた。
「よぉ。どうした?」
いつもの調子で、笑いながらこちらへやってくる。
「訓練を中断させてごめんなさい。明日出発すると聞いたので。」
「ちょうど休憩しようと思ってたから気にするな。」
確かにしごかれていた騎士たちは、かなり疲れていそうだった。
「この前もらったケーキは、ルイーゼも喜んでた。きっとまた食べさせろって言ってくるから、適当に相手をしてやってくれ。」
「わかりました。」
ルイーゼも喜んでくれたんだ。
女王陛下の分と一緒にルイーゼの分も作ってあげようかな。

「それから、これ持ってろ。」
渡されたとのは、凝った装飾が施された短剣。
困惑気味にザクセンさんを見る。
「護身用に使え。半身もいるし、リンもいるけど念の為だ。」
「ありがたくいただきます。でも私よりザクセンさんの方が危険なんですよね?」
「俺は強いから大丈夫だ。」
強いのは知ってるけど・・・。
街の人が半分も死んじゃうくらい強い妖魔なんだよね。
ちょっと心配だよ。
俯くと、ザクセンさんが私の頭を撫でた。
「俺の事は心配いらないから。」
顔を上げると、真剣な眼差しのザクセンさんと目があった。
真剣なザクセンさんって、普段と違ってドキッとする。
なんとなくザクセンさんの目から目が離せなくなる。

数秒見つめあっていると、リンが私とザクセンさんの間に入ってきた。
「何を見つめあっているんですか?ザクセン様ちょっと沙羅様から離れてください。沙羅様まで手を出そうとしないで下さいね。」
リンがザクセンさんを睨んでいる。
リンは何を怒っているんだろう?
ザクセンさんには何もされてないけど。
「おい、リン。俺がいつ他の女に手を出したんだ?」
「ザクセン様は、噂で娼館通いをしていると聞いていますけど、違うんですか?」
娼館・・。
ザクセンさんも大人の男の人だし、それは・・・、不思議はないのかもしれないけど。
少しザクセンさんから離れる。
「そんな噂いったいどこから・・・。娼館なんかしばらく行ってないのに。・・・おい、2人とも俺をそんな汚いものでも見るような顔で見るな。」
そんな顔してない。
でも行ってたのは本当なんだ。
「じゃあ、私はこれで。」
くるりとザクセンさんから背を向けて歩き始める。
カイエン様もやっぱり行ってたのかな?
男の人ってやっぱり娼館とかで・・・。
でもカール殿下は娼館行かなくても、大丈夫そうだな。
リオは、まだ行ってないよね?



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部屋に1人になってから、貰った短剣を眺めていると、ミツキが来た。
「あっ、ミツキ。お茶でも飲む?」
「いや、いい。」
ミツキは私の向かい側に座ると、短剣を私から取って、眺め始めた。
「その短剣がどうかした?」
「魔法が仕込まれてるぞ。」
えっ!?
それって大丈夫なの?
ザクセンさんがくれたものだから、変な魔法じゃないよね?

ミツキがニヤニヤ意地悪そうに笑ってる。
あっ、今日は心を読まれない魔法、まだかけてなかった。
「心配しなくても、悪いものじゃない。魔力を増強させるくらいだ。」
じゃあ私にはあんまり意味ないね。
攻撃魔法が強くなるならいいけど、私には使えないし。
「治癒力だって増強させれるから、お前にも持っている価値はある。」
なるほど、単なる短剣としての価値だけないってことね。
でもこんなもの貰ってよかったのかな?
ザクセンさんは魔法は全然使えないはずだから、持っていてしょうがないけど、私じゃなくてリンの方がいいような気がする。
「お前がもらったんだから、もらっとけばいいだろう。」

いちいち言わなくても伝わるから便利だけど、本当に考えていることが筒抜けだね。
魔法を使わないと、へんなこと考えられないよ。
「変なことってどんな?」
例えば・・・。
浮かんできたのは昼間の娼館の話・・・。
精霊と人間のハーフがいるってことは、子供ができるってことで、そういう行為をしてるってことだよね?
ミツキも・・・。
ああ、本当に変なことを考えてしまった。
ミツキはまたもやニヤニヤ。
「お前もそんなことを考えるようになったんだな。」
「だって、仕方ないじゃない。」
「まだまだお子様だけどな。」
失礼な。
これでもちゃんと出るところは出てるもん。
自分がそんな行為をするとは、まだ考えられないけど。
「だからお子様だろう。」
むむ。
完璧ばかにされてる。
「まぁ、まだお前には早いだろうな。」
私はもう大人だもん。
早くないもん。
「わかった、わかった。お前は大人だよ。」
むむ。
絶対見返してやるもん。
いつかミツキをギャフンと言わせてやるから。
「楽しみに待ってる。」
ゲラゲラ笑われた。
悔しい〜











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