リンと私は今日は訓練場に向かった。
リンはなんだか楽しそうだ。
ずっと訓練したかったのかな?
今日はすれ違う人がやたら多い。
みんな騎士っぽい格好をしているけど、近衛騎士の白い鎧じゃなくて、茶色い鎧。
今まで見たことない気がする。
私が見ていると、リンが教えてくれた。
彼らは街の治安を管理している、騎士たちらしい。
近衛騎士は一応エリートで、最初は街に派遣されてあの茶色い鎧からスタート、そこで功績が認められたら、近衛騎士に昇進できる。
彼らのことはわかったけど、今日は何かあるのかな?
集会とか?

私たちが訓練場に着いたら、騎士は誰もいない。
誰か1人くらいいてもよさそうなのに。
さっきの茶色い鎧の騎士たちが、たくさん来ているのと何か関係あるのかな?
私とリンは、勝手に訓練を開始した。
カイエン様は勝手に使っても、文句を言ったりはしないでしょう。



久しぶりに剣を握った。
細身の剣だけど、手にズッシリとした重みがある。
覚えているか心配だったけど、剣の扱いは体が覚えていた。
剣を一振りすれば、感覚が戻ってくる。
剣を両手でかまえて、リンと対峙する。
1合、2合とリンの剣を剣で受け止める。
リンの剣は重たくて、私の剣が押されてしまう。
突然バキッと私の剣が2つに折れて、切っ先が私の頬を掠めて飛んでいったので、私の頬が薄く切れた。
リンが慌てている。
「すいません。大丈夫ですか?」
手で傷を拭うと、うっすらと血が付いた。
「これくらい大丈夫だよ。すごい力だね。まさか剣が折れちゃうなんて。」
リンは折れた切っ先を拾って、凹んでいる。
「大丈夫だよ。気にしないで。」
傷口に手を当てて、治癒をすると、すぐに傷口は消えた。
でもリンはまだ凹んでいる。
「ほらリン、もう治ったよ。」
俯いているリンの顔をのぞき込んで、傷口のあった部分を指でつつく。
「お顔に傷をつけるなんて、護衛失格です。」
そんなに気にしなくても・・・。
もう治ったし。
かすり傷だったのに。



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リンがなかなか立ち直ってくれなくて、途方にくれていると、カール殿下がやってきた。
「おはよう、沙羅。やっぱり近衛騎士の連中はいないか・・。」
カール殿下は私たち以外誰もいない訓練場を眺めている。
「おはようございます。今日はみなさんどこに行ったんですか?」
なんだかカール殿下は、暗そうだから、いいことではなさそう。
すれ違った騎士たちも、せっぱ詰まったような感じだった気がする。
「・・僕も詳しいことは知らないけど、ここから少し離れた街で、妖魔の大規模な襲撃があったみたいだよ。」
うわぁ、それで騎士の人たちがたくさん見かけたのか。
もしかして王都にも、妖魔が来るのかな?
「街は大丈夫だったんですか?」
カール殿下が首を横に振った。
「そこまでは僕も知らないよ。ここまで妖魔は来ないだろうけど、また別の街が狙われる可能性はあるから、騎士たちは今後の対策でも立てているだろうね。」
「今までこんなことなかったんですか?」
「僕の知る限りは、初めてだよ。」
何か変なの。
妖魔の間で何か起こってるのかな?
今まで会った妖魔は、確かに群れで襲われたこともあったけど、ほとんど1体ずつだった。
妖魔大量発生なんかじゃないといいな。
頭の中で、砂漠で遭遇した毛虫もどきの妖魔がウジャウジャが思い浮かんだ。
ああ、やだやだ。



訓練場から部屋に戻る途中で、アレンに会った。
アレンは今日ものんびり散歩中らしい。
ほんと普通の猫の生活に慣れてるね。
私たちを見ると、走って近づいてきた。
私に抱きつこうとしたアレンを、リンが間に入って受け止めたので、リンの腕の中でジタバタ暴れている。
「おはようアレン。」
「今日は見慣れない男がいっぱいだな。」
顔をしかめているように見える。
男の人が多いといやなのかな?
「近くの街が妖魔に襲われたらしいの。」
「別に騒ぐほどのことじゃないじゃん。それともここは滅多に妖魔が出ないほど平和なのか?」
「平和ってわけではないけど、滅多にない大規模だったらしいよ。」
「ふ〜ん。」
アレンは興味なさそうだ。
リンの腕から解放されて、私の足にまとわりついてきたので、私が抱っこすると満足そうに胸に顔をすり寄せてきた。
そこへ通りかかったリオが見つけて、アレンの頭をゴンッと殴った。
「いてぇ。何するんだよ、リオ。」
「お前は相変わらず何やってるんだ。沙羅、そいつをさっさと下ろせ。」
リオはご立腹のようなので、言われた通りアレンを下ろした。
アレンとリオはそのまま睨みあっている。
このままだとしばらく続きそうなので、リンに目配せして、さっさとこの場から立ち去ることにした。
少し離れたところで振り返ったけど、2人には気づかれていないようだ。








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