村に戻ったら、みんなよく寝ていた。
火が消えそうだったので、薪を追加したけど、今更寝るには遅すぎるので、火を見ながら座る。
最初に起きたのはザクセンさんだった。
ティアナが寝ていたので、びっくりしている。
私もティアナが寝ているのは、今回初めて見た。
宿屋に泊まっている時も寝てないのかな?
「おはようございます。」
「おはよう。 もしかしてずっと起きてたのか?」
「まあ。ちょっと寝るどころじゃなくて。記憶が戻ったんです。」
「よかったな。」
ザクセンさんにガシガシ頭を撫でられたので、髪がグシャグシャ。
ザクセンさんは、自分のことみたいに喜んでくれた。
「来たかいがあったな。」
「はい。」
私もザクセンさんもテンションが高くて、自然と声が大きくなる。
そのせいか、みんな起きてしまった。

あくびをしながらアレンは伸びをした。
「おはようございます、沙羅様。私寝過してしまいましたか?いつ寝たのか記憶にないのですが・・。」
「オイラもいつ寝たか覚えてないや。」
ザクセンさんとリオが呆れた顔で2人を見ている。
「私と草原に行って、すぐ寝ちゃったんだよ。2人とも起こしても起きなかったから、ザクセンさんがリンを運んで、私がアレンを運んだの。」
「えっ! 申し訳ありません。」
リンが立ち上がると、私にペコペコ謝り始めた。
私は、リンの頭を撫でて、謝るのを止めた。
「大丈夫だったからいいよ。ほんと気持ちよさそうによく寝てたよ。よっぽど疲れがたまってるのかな?大丈夫?」
「はい。 私は大丈夫です。 そんなに疲れてないのですが・・。」

「それより、記憶が戻ったと話していなかったか?」
リオが真剣な顔で私を見ていた。
「はい。昨晩思い出しました。あと半身も見つかりました。」
「半身!?」
ザクセンさんと、リオと、リンの声が重なった。
そんなにびっくりすることかな?
「よかったですね。おめでとう。」
ティアナは落ち着いていて、ニコニコしていた。
「ありがとう。」
私もつられて笑った。

「半身ってどんな奴なんだ?」
「光の精霊です。私がこっちの世界にいる時に契約していたんですが、記憶を失っていたので、契約がほぼ無効化していたみたいです。昨夜新たに契約し直しました。」
契約って意外と簡単。
精霊に名前をつけることだから。

「私リオ様に聞きたかったんですが。リオ様はティアナに知られたくないことがあった時、どうやって隠すんですか?私はどうしても心を読まれちゃって・・・。」
ティアナはクスクス笑っている。
そんなにおかしいかな?

「難しいな。しかしなるべく読まれないように心に鍵をかけろ。」
えっ!?
全然その説明わからないよ。
「読まないでほしいと念じたら、読まないと思いますよ。まぁその精霊次第ですが。」
たぶんそれは無理な気がする。
この2人を参考にしようとしたのが間違いなのかも。
でも他に半身を持っている人知らないな。
いつか方法を見つけてやる。
私にもプライバシーは必要よ。
うん。
レオナーさんならもしかしたら、何か方法を知ってるかも。
戻ったら聞いてみよう。



「アレンはこれからどうするの?」
私たちは王都に戻るけど、アレンは王都に行く必要もないよね。
今までは私たちに付き合ってここまで来てくれたけど。
「オイラかぁ。何も考えてなかった。でも沙羅とはまだいたいなぁ。今まで楽しかったし。」
「お前王都までついてくる気か?王都は妖魔は立ち入り禁止だ。」
リオがアレンを睨んでいる。
「何だよ。 また勝負するか?」
「よし。何でも来い。受けて立ってやる。」
また始まったよ。
勝手にやってて。
みんな止める気配はない。
それだけ平和ってことだよね。
思えばこの2人もいいコンビだよね。

でも妖魔ってやっぱり王都に入れないのかな?
「アレンを連れて帰るのはまずいですか?」
「私は別にいいと思いますよ。」
「俺もかまわないと思うぜ。普段は猫に見えるし。大きくならなければ問題ないだろ。」
「私は嫌です。ああ見えても妖魔ですよ。それに王都でもずっと沙羅様のそばにいるなんて・・・。」
無害なんだけどな。
妖魔ってバレなければ、何とかなりそうだけど、リンの協力は絶対必要。
「リン、どうしてもだめかな?」
私はリンの顔をジーッと見た。
「リン。」
目が合うとパッとそらされたけど、リンの顔が赤かった。
さらにリンに近づいて、至近距離から顔をのぞき込む。
リンは手で顔を隠して、恥ずかしそうに後ずさった。
かわいい反応。
もっといじめたくなる。
「わかりました。つれて帰っていいですから、それ以上近づかないで下さい。」
「そんなに嫌わなくてもいいのに。 リンに嫌われてたなんてショックだな。」
もちろんリンに嫌われてないのは、わかってる。
恥ずかしがり屋のリンは、きっと焦る。
「嫌ってなんていません。 誤解です沙羅様。」
思った通り、焦ったリンがすがりついてきた。
いい反応。
「よかった。」
私が笑ったから、リンも安心したみたい。
これでアレンの件は大丈夫。



まだリオとアレンはにらみ合っている。
今回の勝負は、瓦礫積みだった。
高く積み上げた方が勝ちだ。
手を自由に使えないアレンには不利すぎる。
勝利を確信したリオだったけど、ティアナが最後にリオが積んだ瓦礫を崩した。
「こんな勝負で勝っても、何にもなりません。 勝負は公平でないと。」
リオは言い返せずに、黙っていた。



「そろそろ行くか?」
ザクセンさんが立ち上がった。
「沙羅様の半身は一緒に行かないんですか?」
「呼んだら来てくれるよ。ずっと一緒だと緊張するから、離れてるの。」
「緊張するのか?」
リオはちょっとびっくりしている。
「はい。 ずっと心を読まれてると思うと、気が抜けなくて。」
「そのうち慣れるぞ。」
そうかもしれないけど。
今はいいや。
「沙羅様の半身を見たいです。」
「俺も見たい。」
リンとザクセンさんが期待の眼差しで私を見ている。
仕方ない。
「ミツキ」
私が呼ぶと、辺りが光に包まれて、眩しさに目を閉じた。



一瞬の浮遊感を感じて目を開けると、信じられない景色が広がっていた。
まさか・・王都?
石で作られた頑強な外壁に囲まれ、白亜の白がそびえ立つ街。
どうやって?
「ここまで戻るつもりだっただろう?まさかまた歩いて帰るつもりだったのか?物好きだな。」
いつの間にか私の横に、ミツキがたっていた。
これはミツキが?
「そう。」
ほかのみんなは呆気にとられている。

ティアナは、ミツキを見てガクガク震えていた。
山の頂上付近にいた精霊の時もこうだったっけ。
精霊の社会も上下関係厳しいのかな?
「ティアナ大丈夫?」
「はい。もしやその方が沙羅の半身ですか?」
「はい。」
名前は言わない方がいいよね。
「・・そうですか。」
ティアナはミツキと目が合わないように俯いていたけど、ミツキはティアナを全く気にしていないみたい。

「精霊の力か?便利だな〜。ティアナもできるのか?」
ザクセンさんはティアナに聞いたけど、ティアナはそれどころじゃなくて、聞こえていないみたいだった。
「ティアナはこんなに長い距離を移動させるのは無理だ。」
代わりにリオが答えていた。
リオとアレンは何故かミツキをにらんでいる。
いきなり王都まで帰ってきたのが、気に入らなかったのかな?







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