薪を囲んで、私たちは寝転がった。
リンとアレンは、あのまま寝続けている。
ティアナは、毎度の火の番をしているけど、リオとザクセンさんはもう寝たようだ。
私はなんとなく寝付けなくて、何度も寝返りをうった。
空を見ると、満天の星と明るい三日月。
綺麗な星空。
今まで星を見る余裕なんてなかったな。
三日月・・。
そう月だ。
一瞬頭によぎったのは、月の綺麗な草原。
わたしは、そこで出会った。
ムクッと起きあがる。
「ちょっと行ってくる。 すぐ戻ってくるから。」
「わかりました。 何かあったら呼んで下さい。」
私は頷いて、草原に走った。



胸が高鳴った。
風もない草原は、静かだった。
あの日もこうだった。
そう、私と彼が初めて会った日。
どうして忘れたりしたのか。
私の大切な精霊。
目を閉じれば、姿を思い出すことができる。
彼を思いだしたとき、霧が晴れたように、全て思い出した。
「ミツキ」
初めて会ったとき、闇の中に月のように光っていたから、そう呼んだ。
そしてそれが彼の名前になった。



闇の中に光りが現れた。
私は光に向かって走って、光の中心にいるミツキに抱きついた。
やっと見つけた。
ミツキだ。
たった1人の私の半身。
ミツキは私を抱きしめてくれた。
「遅いよ。 いつでもそばにいるって言ったじゃない。」
「悪かった。 お前が早く思い出せば、もっと早く来れたぞ。」
なんで忘れてたんだろう?
「それは、俺がこの世界の記憶は邪魔になると思って、封じておいたからだ。」
それってわたしのせいじゃないじゃん。
私はむくれて、ミツキからはなれた。
今までの苦労って、全部ミツキのせいだ。
「全部俺のせいはひどいぞ。」
え?
私しゃべってないよ。
ミツキはニヤニヤしている。
「半身なんだから、考えてることくらいわかる。 知られたくなかったら、もっと心を閉じろ。」
私にはミツキの心がわからないのに、不公平だ。
「訓練次第だ。」
ミツキってこんなに意地悪だった?
もっと優しかった気がする。
しばらく会わない間に、かわったんじゃない?
「俺は何も変わってない。」

昔はもっと、大きかった気がするけど、それは私が成長したせいか。
ミツキの腰くらいしかなかった背が、今はちゃんと肩まである。
これでも身長は165cmはあるから、決して低くはない。
実はリオより身長は高いのだ。
顔は・・・。
精霊だから年を取ってない。
前よりかっこいいかも。
ずっと顔を見てると、目が合って、顔が赤くなってしまった。
かっこいいよね。
この精霊が私の半身って自慢したくなる。
金の髪に金の瞳の美形。
今まで見た誰よりも綺麗だ。
ああ、これも聞こえているよね・・・。

ミツキの顔が近づいてきた。
ミツキの唇と私の唇が重なるまであと1cmの距離だ。
私は思わず目を閉じたけど、その唇が重なることはなかった。
「ば〜か。」
ミツキがそう言って、おでこにデコピンされた。
痛い。
からかって遊んでるよ。
「ミツキなんか嫌いだ。」
ミツキは平然としている。
嫌えるわけなんかないとわかっているから、またムカつく。

「・・・みんな死んじゃったの?」
村の廃墟がここから少し見えた。
「ああ。 俺はお前を逃がすことで精一杯だったからな。」
でも私の元の世界での家族と、こっちの世界の家族ってそっくりだ。
「ああ、それはこっちで死んだお前の家族を、あっちで生き返らせたから。」
そんなことできるの?
神様みたいだ。
「それくらいできる。」
精霊ってすごいなぁ。
「精霊みんなができるわけじゃない。 俺は特別だ。」
なるほど・・。

あの雪女みたい精霊も、知り合いかな?
夢じゃなかったら、現実にもいるよね。
「雪女ね・・。 古い知り合いだな。」
私の雪女発言がおもしろかったのか、かなり笑い続けている。

私ってやっぱり、一族が皆殺しにされるきっかけとなった少女なの?
「お前のせいじゃないさ。 あの魔法使いのせいだ。」
そっか・・・。
またミツキの顔が近づいてきたから、からかわれていると思って、じっとミツキを見ていた。
今度はおでこにキスされたので、びっくり。
「おまえはこれ以上気にするな。」
ミツキの声はともてやさしくて、涙が出た。
ミツキは私の涙を唇でぬぐったので、私は恥ずかしくて、涙が止まった。
ミツキに踊らされている気がする。
あとでリオに半身とのつきあいの秘訣を教わろう。

「ミツキはこれからどうしたらいいと思う?」
「お前の好きにすればいい。」
それがわからないから、聞いているのに。
「もう離れないから心配するな。」
でもミツキとずっと一緒だと私の心臓が持たない気がする。
「なら呼んだらいつでも来てやる。」
じゃあそれでお願いします。

ミツキとの再会を楽しんだ私は、夜通し草原でミツキと話した。
ティアナ心配してるかな?
「俺が眠らせておいたから、今頃眠っている。」
そっか。
でもわざわざ眠らせなくてもよかったと思う。
明け方みんなが起きるまえに、村に戻った。







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