私たちはようやく、麓の村に着いた。
村といっても、もはや廃墟だった。
崩れた瓦礫の破片が、いたるところに転がり、家のあった形跡ぐらいはわかるけど、他はなにもない。
これが村・・。
私は村を見て感じたのは、懐かしさではなく、虚しさだった。
本当に来る必要があったのか、わからなくなる。
この廃墟から、もとの村を想像することは、難しい。
「ひどい有様だな。 10年以上も経ってるから当たり前か。」
ザクセンさんは、廃墟を一通りまわって帰ってきた。
「何かわかるか?」
リオに聞かれたけど、私は首を横に振った。
「何も・・。」
やっぱり私はこの世界とは無関係なのよ。
だから何も感じない。
この世界とは無関係だと信じていたけど、何だか複雑だ。
この世界にしばらく居たせいか、この世界の住人であってほしいと、心の奥で思っていたのかもしれない。

誰かに呼ばれたような気がして、呼ばれた方向を見ると、村の向こうに草原が見えた。
いつか夢で見たのも草原だったな。
私は立ち上がって草原に向かった。
「沙羅様どちらへ?」
「ちょっと草原へ行ってみるよ。」
「私も行きます。」
リンとアレンがついてきた。
「夕方までには戻れよ。 今夜はここで野宿して、明日帰ろう。」
リオが私を気遣う顔をしながら、そう言ったので、頷いた。
ここにいても、たぶん何もかわらないから、早く王都に帰りたい。



心地よい風が草原の草を揺らしていた。
王都で見た夢と同じ景色が広がっていた。
村よりこの草原の方が、懐かしい感じがした。
夢でみたせいかな?
「おかえり。」
どこからともなく、たくさんの声がそう囁いた。
まるで草と風が大合唱しているみたいだ。
私は聞いたことがある・・。
この声を。この風を。
「ただいま」
気がつくと、つぶやいていた。
草原にそのまま寝転がってみた。
懐かしい香りがした。
何も思い出せないけど、私はここを知っている気がする。
確信はないから、漠然とした勘だけど。
私はこの世界の人間かもしれない。
リンもアレンも私と同じように、寝ころんだ。



「おかえりなさい。 ずっと待ってたよ。 いつか帰ってくると思ってた。」
私の顔を上からのぞきこんだのは、茶色の髪と目の女の子。
リンもアレンも反応はないから、精霊かな?
今度は何の精霊かな?
なんだか土の匂いがするから土の精霊かな?
「ただいま。」
女の子はにっこり笑った。

「あなたも私を知ってるの?」
「うん。前は毎日遊んでたよ。忘れちゃったの?」
ちょっと悲しそうだった。
待ってたのに、忘れられたら、悲しむのは当たり前か。
「ごめんね。」
「ううん。いいの。でも光様も忘れちゃったの?」
「光様?」
源氏物語みたい。
「ごめんわからないよ。」

よく周りを見ると、他にもあちこち精霊がいる。
リンとアレンが静かだと思ったら、寝てた。
2人とも私のボディーガードじゃないの?
寝てたらだめだと思うよ。

「光様って誰?」
「フィーの契約した精霊だよ。」
やっぱり、フィーは私の名前なんだろうな。
私って契約してたんだ。
だったらどうしてティアナみたいに一緒にいてくれないの?
私のこと嫌い?
行方不明って聞いた気がするけど・・。

「その光様はどこにいるか知ってる?」
「フィーが名前を呼んだら、来てくれるよ。いつもそうだったよ。どこにいるかは、わからない。」
光様って呼ぶのかな?
「光様、光様光様光様。」
試しに呼んで見たけど、しばらく待っても反応はない。
精霊にゲラゲラ笑われた。
「ちゃんと名前呼ばないとだめだよ〜。」
「名前知らないよ。光様って名前じゃないの?」
「光様は、私たちがそう呼んでるだけ。」 
「じゃあ名前教えてよ。」
「無理。」
ほかの精霊たちも首を横に振った。

「どうして無理なの?」
「光様は、半身以外に名前を呼ばれることを嫌がるの。知らずに呼んだ子が、消されちゃった。」
それは言えないよね。
適当に呼んだらそのうち当たるかな?
でも精霊の名前なんてなかなか思いつかない。
横文字の名前なんて、ここに来るまであんまり馴染みがないし。
ハリウッドスターの名前くらいしか、考えつかないな。
「ヒントない?」
「ない。」
だめか・・。



ザクセンさんが呼ぶ声が聞こえてきた。
もう夕方だから呼びに来てくれたのだろう。
「ザクセンさんここで〜す。」
私は手を挙げて、ここにいるサインをした。
精霊たちは消えてしまった。

やってきたザクセンさんは、寝ているリンとアレンを見て呆れていた。
リンを起こしても、全く起きなかったので、しょうがないと言いながら、リンを抱えた。
私はアレンを抱えて、ザクセンさんの横を歩いた。
「残念だったな。」
ザクセンさんが小さな声でつぶやいた。
「いいえ。 ここに来てよかったです。」
今はそう思う。
私はこの世界の住人だと信じられたから。
わからないことは、いっぱいあるけど、まだまだこれから、知っていけばいい。
これからどうしようか?
まずは王都に帰って、女王陛下とレオナーさんに報告。
それから・・。
光様の名前探さなきゃね。
そのうち・・思い出せるかな?

「ザクセンさん、今までありがとうございました。」
「まだ旅は終わってないぞ。最後まで何があるかわからないからな。その様子だと大丈夫そうだな。村を出たときは、今にも倒れそうな顔してたぞ。」
私そんな顔してた?
あの時は確かにショックだったけど。
ちょっと気持ちが楽になったな。







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