森を抜けたところで、私たちは一夜を明かした。
「ティアナは木の精霊に気づかなかったの?」
「いるのはわかったのですが、普通は悪さをしないので、気にしていませんでした。」
「何故沙羅にだけ見えたのだろうな。 俺やザクセンには全く見えなかったぞ。」
「すごいですね沙羅様。私なんて微妙に感じるぐらいですよ。 今まで他にも見えていたのですか?」
「さっき初めて見えたよ。私の見た木の精霊は実体化していなかったってこと?普通の子供に見えたよ。」
不思議だな。
いきなり見えるようになったりするものなのかな?

「もしかしたら、ここに来て、力が目覚めたのかもしれませんよ。」
「すごいです沙羅様。精霊を見る目は、訓練でどうにかなるものじゃないんですよ。」
リンが尊敬の眼差しで、私を見ている。
尊敬されるようなことなの?
全く実感はない。
さっきからアレンは、無関心らしく、私の隣で丸くなって寝ている。
ザクセンさんは、もくもくと食べているから、かなりお腹がすいていたみたいだ。

そういえば、木の精霊から忠告されていたっけ。
「さっき木の精霊から、怖い人がいるから気をつけるように言われました。」
「怖い人って、人間でしょうか?」
リンが頂上の方を見た。
「人間ならよほど強いんだろうな。 戦ってみたいな。」
ザクセンさんはワクワクしているみたい。
できるなら私はそんな人会いたくないよ。
これ以上厄介事に巻き込まれたくない。
「ヴァレリーという可能性もあるな。」
リオの一言でアレン以外の全員に緊張が走った。
アレンはヴァレリーは知らないらしい。
「頂上付近にすごい精霊の気配がするので、それかもしれません。」
ティアナが頂上の方を向いて、考え込んでいた。
「すごい精霊って、数が多いの?それとも強いの?」
「かなり強そうな精霊が1人。できれば、近づきたくないです。」
ティアナより強い精霊かな?
でも悪さしないなら、問題ないと思う。
「こんなに強い精霊は感じたことがないです。 まだ離れているのにこの気配。 何もないといいのですが。」
よく見るとティアナは震えていた。
今まで妖魔を前にしても震えているところなんて、見たことなかった。
妖魔より精霊の方か怖いの?
精霊同士だからかな?



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次の日は雪だった。
頂上に近づくほど、雪はひどくなり、今は吹雪いている。
視界が悪いので、みんなを見失わないようにするのが大変。
それに、寒い。
厚手のコートを着ているけど、どんどん体が冷えてくる。
手もかじかんできた。
アレンは全身毛皮だから、あったかいのかな?



突然吹雪がやんだと思ったら、目の前に全身白ずくめの女の人がいた。
「雪女!?」
私は叫んだけど、雪女ってここにもいるの?
昔ここで遭難した女の人が、化けてでてきた?
もしかしてティアナが言ってた強い精霊ってこの人?
ティアナに聞こうとしたけど、私以外誰もいない。
またはぐれちゃったよ。
1人で雪女と対決は、怖すぎだよ。
逃げようにも腰が抜けて、動けない。
このまま凍らされちゃうの?

ゆっくりと雪女が近づいてくる。
「私に何かご用ですか?」
声が震えなかったのが奇跡的。
「ほほほ。わらわが見えているようじゃな。そう怖がらずともよい。そなたに危害を加えたら、後が怖いからのぉ。」
意外と友好的?
ちょっと緊張をとく。
「そなた会ってみたかっただけじゃ。」
私って有名人?
木の精霊から聞いたのかな?
「あなたは誰ですか?」
「わらわは氷の精霊じゃ。」
精霊だったら、凍らされないよね。

「どうして私のことを知っているのですか?」
「わらわは何でも知っている。 そなたよりそなたのことも知っている。」
わたしのこと?
「教えて下さい。」
いったい私のなにをしっているの?
私の事は、私自身が一番よく知っているはず・・。
「そうじゃな。では1つ教えてやろう。そなたの本当の名はフィシスじゃ。偽りの中に生きるもよし、真実を求めるのもよい。全てはそなたしだいじゃ。」
フィシス・・。
私はやはりこの世界の住人なの?
村に着けばきっと、何かわかるよね?



ぼんやりと考えていると、雪女はいなくて、リンが私の顔をのぞき込んでいた。
「沙羅様?」
「あれ? 雪女は?」
リンはキョトンッとしている。
「ぼーっとしていると思ったら、寝てたのか?こんなところで寝られるとはすごいな。」
後ろにいたザクセンさんに笑われた。
夢だったの?
夢にしては変な感じ。
「大きな精霊の気配がなくなりました。」
ティアナの言葉にみんなほっとした。
雪もすっかりやんでいる。

アレンとリオは、今度は雪合戦で対決し始めた。
アレンはリオに近づいて、雪をかけるだけ。
でも素早く足で雪をかけて移動するから、なかなかリオは苦戦している。
2人を見ていると安心する。
けれど、さっきの雪女が頭から離れない。
本当に夢だったの?
フィシスという名が頭の中をぐるぐる回っている。
木の精霊のフィーは、フィシスの略称とか?
う〜ん、わからない。
夢だったら、考えても仕方ないけど。
もやもやする〜。






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