ようやく砂漠を抜けた私たちの目の前には巨大な山が見えていた。
これを登るんだね・・・。
この大陸っていろんな地形があるね。
「目的の村まで、あとどれくらいでしょうか?」
きっとまだまだ遠いよね。
これからもいろんな妖魔と遭遇するかと思うと気が滅入るよ。
「あの山の向こうが、目的の村だぞ。 もう少しだ。」
そっかぁ。
もう少しなのか。
頑張れそう。
グッと拳を握りしめる。



足を踏みはずしたら、下まで真っ逆様の急斜面を上る。
普通の道はないの?
怖くて下が見れないよ。
リオとティアナが先頭で、次に私とリン、最後にザクセンさんとアレン。
もし私が足を踏み外したら、ザクセンさんかアレンが、止めてくれる。
段々と私の息が上がってきた。
「大丈夫ですか?」
「うん。まだ大丈夫。」
「もうしばらく登ったら、平地があるはずだ。 そこまで頑張れ。」
リオが私を振り返って叫んだ。
地図には山としか書かれていなかったから、ティアナが調べてくれたのだろう。
こんな場所で妖魔がきたら、大変だ。



平地まで登ると、山の頂上が見えた。
でも一番手前の一番低い山。
下から見えていたのは、山が1つだったけど、山がいくつか連なっているみたいだ。
雪化粧している山もある。
見ているだけで寒そう。
「山だらけですね。」
リンがボソっとつぶやいた。
高い山の頂上付近は厚い雲で覆われている。
神秘的な雰囲気だけど、山だらけと言われると、身も蓋もない感じ。
「・・そうだね。 これ全部登るのかな?」
「全部登ったら、さすがに身がもたないぞ。 あの一番高い山の麓あたりに村があるはずだ。」
ザクセンさんが、指をさして教えてくれた。
「じゃあこの山を越えて、あと2つは山を越えないとだめですね。」
まだ先は遠い。

「オイラ疲れた〜 沙羅抱っこだ。」
アレンが言いながら、抱きつこうとしたので、リンが間に入って阻止。
「沙羅様も疲れています。 自分で歩けないなら、ついてこないで下さい。」
「やだやだ。」
アレンが駄々っ子のように、仰向けに転がって、バタバタ足を動かす。
そこをゲシッとリオに踏まれた。
リオってアレンに何か恨みでもあったっけ?
「うるさい猫だな。 丸焼きにして食うぞ。」
目が真剣だったから、冗談に見えない。
猫ってここでは食用?
アレンは食べたくない。
「猫って食べるんですか?」
笑って見ているザクセンさんに聞いてみた。
「食べないな。」
「もしかして食料少なくなったんですか?」
私食べ過ぎた?
量ならザクセンさんの方が。
精霊と人間のハーフとばれてから、リンも食事をとっていない。
必要はなかったけど、今まで不審に思われないように、私たちにあわせていたらしい。
「そんなことはないので、安心して下さい。」
心配して、損しちゃったよ。
じゃれてるだけか。
お互いにらみ合って、段々と取っ組み合いの喧嘩でも始めそうな雰囲気になってきた。
「止めないんですか?」
「気かすむまでやらしてもいいだろう。」
「たまにはいいでしょう。」
ザクセンさんもティアナも笑っていて、全く止める気配がない。
しょうがないか。
怪我しなきゃいいけど。



しかし複数の獣の足音が聞こえてきた。
妖魔かな?
やっぱりいるよね。
「よし、あいつらを多く片づけた方が勝ちだ。 いいな黒猫。」
「オイラはアレンだ。 その勝負受けてやる。 勝ったら沙羅に抱っこしてもらう。」
なぜそこで私?
「負けないからな。」

リオと黒ライオンになったアレンが、妖魔に突っ込んでいった。
今回は2人に任せて、あとは静観。
真っ白な狼みたいな妖魔10匹ほどと、戦っていた。
妖魔を殺す度に、殺した数を言いながら、戦っている2人。
緊張感のかけらもない。
アレンが1匹蹴り殺したら、リオが1匹風の魔法で切り刻んで殺し、アレンが1匹喉に噛みついてとどめをさすと、リオが炎の魔法で丸焼けにして殺した。

結果は5対5の引き分け。
どちらも悔しがっていた。
「勝負は次に持ち越しだからな。」
「黒猫なんかに負けるか。」
「オイラはアレンだ。」
終わった後もにらみ合っている。
まだまだ続きそう。



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目的地までの最後の山を登り始めてから、妙な違和感を感じた。
森の中で、誰もいないのに、視線を感じる。
おかしいな。
「誰かに見られているような感じがするけど、リンはどう?」
「視線は感じるのですが、誰もいないようですね。」
「へんな感じだな。 変な匂いも、音も聞こえないぞ。」
アレンが鼻をヒクヒクさせている。
私だけじゃないということは、気のせいじゃないかも。
キョロキョロ見渡したけど、やはり誰もいない。
「この森から早く出た方がいいでしょう。走って下さい。」
ティアナの言葉通り、私たちは走った。

走っても、走っても、景色が変わらない。
最初は森の中だから、同じように見えているだけかと思った。
けれど、ばつ印をつけて目印にした木を何度も通っていた。
迷子?
「さっきから同じところばかり通っていないか?」
「そうみたいです。」
あれ?
ティアナとリンとアレンがいない。
さっきまでいたのに。
いつはぐれたんだろう?
「リオ様ティアナは?」
リオは私に言われて初めて気がついたらしい。
キョロキョロしている。
「リンとアレンもだな。 あいつらどこ行った?」
ザクセンさんがガシガシ頭をかいた。

リオが蒼い顔をしていた。
「リオ様?」
「・・ティアナと連絡が取れない。 こんなこと初めてだ。」
それっておおごとだよね。
どうしたらいいんだろう?
あの3人だけ、何故いないの?
あの3人は迷子にならなかったとしたら・・。
残された私たちは、人間だ。
それが違い。
「リオ様、沙羅気をつけろ。」
ずっと視線は感じている。
やはりどこかにいる。
「ここを抜けるには、何かを倒さないと進めないかもな。 離れるなよ沙羅。ザクセンは後ろを頼む。」
「了解です。 前は任せましたよ。」
こんな時でもザクセンさんは、楽しそうだ。
「楽しそうですね。」
「一番年上だからな。 不安な顔はしてられないだろ。」
リオはティアナがいなくて動揺してるし、ザクセンさんまで動揺してたら、私も平静じゃいられなくなるか。
意外と冷静に考えてるんだ。
年の功?

何かが動いた気がした。
じっと目を凝らし一点を見つめる。
木が動いた?
まさか、動くはずないけど。
さらに見る。
やっぱり木が動いてる。
生きてる木?
木の妖魔?
でも悪意は感じない。
なんだか不思議。
「木の妖魔っていると思いますか?」
「俺も妖魔を全部知ってるわけじゃないから、いないとは言えない。」
「妖魔というより、精霊に近い感じだ。」
リオは目を閉じて周囲の気配を感じている。
精霊なら納得できる。
でも精霊ならどうして、私たちを迷子にしたの?

木の陰からヒョッコリと女の子が顔を出した。
人間?
私と目が合うと、パッと木に隠れた。
私は女の子の方に近づく。
「沙羅離れるな。」
リオが私の手を掴んで、引き寄せた。
「あの木のところに女の子が。」
木を指さしたけど、リオもザクセンも首をかしげるだけ。
2人には見えていないんだ。
私にはあんなにはっきり見えるのに。
「ちょっと待っててください。」

私は女の子のそばに行ったけど、女の子は逃げなかった。
私をジーッと見て、しばらくして微笑んだ。
「やっぱり、フィーだ。 久しぶり。」
フィー?
私を誰かと間違ってる?
「誰かとまちがってるよ。 私はフィーじゃないよ。 沙羅っていうの。」
女の子は小首を傾げ、再び私を見た。
「ううん、フィーだよ。 私が間違えるはずないよ。」
女の子が抱きついてきた。
困ったな。
「あなた誰?」
「私? 木の精霊だよ。 忘れちゃったの? 昔よく遊んだじゃない。」
フィーはおいといて、木の精霊ということは、私たちを迷子にしたのはこの子?

「あなたが私たちを森の中に閉じこめたの? どうして? 私たちの仲間をどこにやったの?」
「私たちは、人間が麓の村に近づかないようにしているの。 人間にだけきくから、妖魔とか精霊は、そのまま森を抜けたよ。」
「どうしてそんなことを?」
「私たちは、村を守ってるの。 村の人はもういないけど、私たちはあの村が大好きだったから。」
絶滅した一族を知っているんだ。
「フィーはその村に住んでいたの?」
「うん。」
「私たちはその村に行きたいけど、だめかな? 私の髪、今は染めてるけど、元は黒だし、目も黒いよ。」
「フィーならいいよ。 おかえりなさい。」
だからフィーじゃないよ。
通してもらえるなら、ありがたく通してもらおう。
「みんないいよね?」
女の子が叫ぶと、何人も子供が顔を出した。

いっぱいいる。
「いいよ。」
声が木霊する。
みんなが賛成してくれたみたい。
「このまままっすぐ行ったら、抜けれるよ。 頂上付近に怖い人がいるから気をつけてね。」
強い妖魔でもいるのかな?
「ありがとう。」
みんなが手を振ってくれた。
私はリオとザクセンさんのところに戻って、説明した。
教えられた通りに歩いていくと、すぐに森を抜けて、3人と合流できた。

フィーか。
妙に懐かしい気がするけど、気のせいかな?








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