オアシスで休憩して、しっかり服が乾いてから出発した。
また、歩いても歩いても砂漠。
そして全身砂まみれ。
さっき出発したばかりだけど、もう次のオアシスが待ち遠しくてしょうがない。
私ってだめだね。
あれから、リンとリオは協力して、アレンを私に近づけないようにしていた。
そこまでしなくてもいいと思うんだけど・・・。
抱っこはしないけど、傍にいるのはかまわない。
アレンはちょっと拗ねている。
まぁ暑いから、毛の固まりみたいなアレンが傍にいると、余計暑いような気もする。
リンとリオは、暑さが平気なので、アレンを任せてしまおう。



2つ目のオアシスに着いたのは、夕方だった。
日が完全に落ちる前に着けてよかった。
気温が急に落ちてきて、今は肌寒いくらいだ。
これからもっと冷えてくるみたい。
薪をたいて、暖をとる。
こうなるとさすがに、泳ごうとは思わない。
リンが私に毛布を1枚掛けてくれたけど、まだ寒い。

「日中とは気温が全然違うね。」
「そうみたいですね。私は砂漠は初めてなので、びっくりです。」
「王都のある大陸には砂漠はないの?」
「あっちには砂漠はないな〜」

ザクセンさんは持ってきたお酒を飲み始めた。
私にも体が温まるからと、薄めたものを1杯だけもらった。
ジュースで薄めたわけではなかったので、すごく苦くて、少しずつ飲むことにする。

「じゃあ、ザクセンさんも初めて?」
「ああ。」
「リオ様とティアナは?」
「俺も初めてだ。」
「私もです。」
みんな初めてなんだ。
初めての割に落ち着いてるね。

「ティアナはリオ様と会う前は何をしてたの?」
精霊って普段何をしているのか、疑問だったんだよね。
「そうですね。あちこと旅をしていましたよ。旅といっても風になって移動するだけですけど。」
風かぁ・・。
何だか気持ちよさそう。
「ずっと旅をしていようと思わなかったの?」
「思いませんでしたね。リオを見つけたので、リオと一緒にいたいと思いましたから。急にどうしたのですか?」
「う〜ん。 ティアナは前に私に半身がいる気がするって、言ってたでしょ。 私が黒髪黒眼の一族の全滅のきっかけとなった女の子は、半身と契約してたって言うし。 精霊から見てどんな感じなのかなって。 強さだけを求めて、それまでの生き方を変える心境を知りたかったから。」
「強さだけの為に、半身と契約する精霊の方が、少ないと思いますよ。 半身と契約する方が精神的に満たされるというか・・・。 精霊じゃないと、わからない感覚かもしれません。」
「そっか。 変なこときいてごめんね。」
「いえいえ。」



ティアナが見張りをしてくれるので、休もうかと思った時に、地響きが聞こえた。
何の音?
砂漠でも何か出るの?
アレンが黒ライオンの姿になって、もと来た道と反対方向に向かった唸っているので、他のみんなもそちらを向いた。
段々地響きが大きくなり、モコモコと土が盛り上がって道のようになってきた。
何か来る・・・・。
地響きが止まったと思ったら、大きな固まりが地面から飛び出した。
固まりと思ったのは、モスラを毛虫にした感じの妖魔だった。
虫は大嫌いなので、声も出なかった。
気持ち悪い・・・。
ブニョブニョ這いずり回って近づいてくる。
いやぁぁぁぁ。
近くにいたザクセンさんに、おもわず抱きついてしまった。
ザクセンさんは、私の背中を撫でて、宥めてくれたけど、落ち着けない。
見たくない。
聞きたくない。
現実逃避したい。



リオとティアナとリンが魔法で攻撃を開始したら、妖魔は大きな口らしきものを開けて、攻撃を全部吸いこんでしまった。
嘘でしょ?
反則技じゃない?
しかも口を開けている間は、常に周りの物を吸いこみ続ける。
どんどん砂が吸い込まれていく。
迂闊に近づくと、こっちも吸いこまれてしまうから、近づけない。
私から離れて剣を握ったザクセンさんも、動けない。
私たちはジリジリ後退する。

何かいい方法ないかな?
日中出てこなかったから、夜行性?
地面の中は、暗いよね?
太陽とか光が苦手だったりしないかな?
何もしないよりましよね。

私は光を出す魔法は得意。
集中して、妖魔の前に大きな光をイメージする。
妖魔の前に目を開けていられないような、眩しい光が出現すると、妖魔は絶叫をあげてもがいた。
あまりの暴れっぷりに、巻き添えにならない位置まで走って逃げた。
妖魔が暴れるから、砂が舞い上がり、視界は最悪。
すぐ下の地面も見えない。
だから私は流砂に気づかなかった。
私の足が急に砂の中に吸い込まれて、どんどん埋まっていく。
焦ってもがけば、もがくほど落ちていく。
「誰か・・・。」
妖魔の絶叫と砂の音で私の声はかき消される。
上半身まで埋まったところで、気がついたザクセンさんが手を伸ばしてくれた。
ザクセンさんの手を掴もうとするけど、届かない。
さらに埋まっていく。
だめだ・・・・。
諦めたかけたときに、ザクセンさんとアレンが流砂に飛び込んで、私たちは落ちていった。



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私はけっこうな高さから落ちたものの、ザクセンさんを下敷きにしたので、痛くなかった。
ザクセンさんは痛かっただろう・・・・。
「すいません。」
急いでザクセンさんの上からどいた。
ザクセンさんは、何事もなく立ち上がったから、どこも怪我はしていないようだ。
明りが全くない真っ暗闇だったので、魔法で小さな光を出して、明りの代わりにする。
かなり広い空間だった。
砂漠の下って、こうなっていたんだ。
目が慣れてくると、アレンが猫の姿に戻っていることがわかった。
黒猫だから暗いところで目を閉じていると、どこにいるかわかりずらい。
目を開けていると、目が光って不気味だけど。

「沙羅はどこも怪我はないか?」
「私は大丈夫です。ザクセンさんこそ大丈夫ですか?巻き込んでごめんなさい。」
私が流砂に落ちなかったら、ザクセンさんもアレンも、落ちる必要なかったのに。
「沙羅が1人で落ちるよりいいだろう。」
うん。
こんなところに1人でなんて、いたくない。
アレンが私に抱きついてきたので、抱っこする。
私が悪かったし、今は抱っこぐらいしてあげないと。
アレンが頭を私の胸にすり寄せてきたけど、我慢。

「じゃあ、上に戻る道を探すか。 どこかにはあるだろう?」
本当にあるよね?
「どっちに行けばいいでしょう?」
私には全く分からない。
ここでは方角すら不明。
「アレンは何か感じないか?」
妖魔の本能ってない?
人間の私たちより五感が優れてるよね?
私とザクセンさんの期待のまなざしが、アレンに集中する。
「あっちに外の匂いがする。」
アレンがクンクンと鼻を嗅いだ。
私たちは、そちらの方に歩いていく。



「ここってどこまで続いているんでしょう?」
「さぁなぁ」
「もしかしたら、さっきの妖魔の巣じゃないのか?」
巣・・・。
あの妖魔がいっぱいいるってこと?
ウジャウジャいるところを想像して、ぞっとした。
「さっさと地上に戻りましょう。」

私に抱っこされていたアレンが、急に私の腕の中から飛び降りて、走り出した。
「何かいる・・・。」
えっ・・。
あの妖魔がさっそく出現?
どうやって戦うの?
逃げるって選択肢はないわけ?
アレンがいないと、地上にでられないので、仕方なく後を追った。



アレンが唸りながら、黒ライオンに変身して、暗闇にうごめく物に向かって行った。
辺りを明るくして、あまりの気持ち悪さに、倒れそうになった。
いたのは、人間の赤ん坊ぐらいの大きさの、さっきの妖魔が10匹以上モゾモゾ動いていた。
いやぁぁぁ。
見たくなかった。

まだ小さいせいか、口を開けて物を吸いこむことをなかった。
アレンはゲシゲシ踏みつぶしたり、転がしたりして、攻撃を開始。
妖魔の体液が飛び散り、気持ち悪さ倍増。
ザクセンさんも剣を抜いて、戦い始めた。
私は、少し離れた場所でできるだけ見ないように、待っていた。
1匹を残して、全て殺したので、ザクセンさんは剣を鞘に戻した。
残りの1匹は、アレンが口に咥えている。
アレンはそのまま妖魔をかみ砕くと、食べ始めた。
げっ・・・。
食べちゃうの?
「それ、食べるの?お腹壊しちゃうよ。」
「やわらかくて、おいしいぞ。オイラお腹減ってたからちょうどいいや。沙羅たちも食べるか?」
私はブンブン首を横に振った。
いらない。
絶対食べない。
あんなの食べたらお腹壊すよ。
アレンはあっとう間に、1匹完食し、すでに死んだ妖魔も次々と食べ始めた。
お腹すいていたのね・・・。
でも・・・。
アレンしばらく近づかないでね。
アレンのお腹の中にあれがあるかと思うと・・・。
気持ち悪いよ〜〜〜
ザクセンさんも顔をしかめていたから、きっと同じ気持ちなんだ。
「アレンもっときれいに食えよ。 あちこち飛ばしすぎだぞ。」
問題はそこなの?
違うでしょ。
きれいに片づけたアレンは、黒猫に戻った。
全部食べちゃったよ。
また私に飛びついてきたので、今度は避けた。
「ごめんね。 今は無理。」
アレンは拗ねたけど、無理なものは無理。






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