アレンはまだ生まれて5年しかたっていない、若い妖魔らしい。
妖魔ってみんな話せるものなのかと思ったら、アレンも他に話せる妖魔には会ったことないと言われた。
アレンは特殊な妖魔なのだろう。
戦力としてどうかは、まだ不明。
かわいいから、戦力にならなくても私としては、いいと思っている。
抱っこして移動はつらいなと思っていたら、歩きだしたらちゃんと自分で歩いてくれた。
「どうして港にいたの?」
「人間観察。」
それって面白い?
リンとリオはまだ警戒しているみたいで、たまにアレンを睨んでいる。



森を進んでいくと、猿を少し大きくして、凶暴にしたような妖魔の群に遭遇した。
リオが攻撃を開始するより速く、アレンが唸り声を上げて威嚇し、アレンの体が変化した。
小さい黒猫から、真っ黒なライオンみたいになった。
これなら妖魔と言われても、納得する。
アレンの変化にみんなびっくりしていると、アレンが妖魔の群に突っ込んでいった。
移動速度も風のように速い。
アレンは暴れ回った。
妖魔を前足で蹴り、後ろ足で踏みつけ、牙でかみ殺した。
あっという間に、妖魔の群が全滅。
意外とアレンは強かった。

アレンは私のところに戻ってくると、元の黒猫に戻った。
「すごいねアレン。びっくりしちゃった。」
アレンを抱っこすると、アレンは満足そうだ。
私に抱っこされたまま眠ったので、そのまま歩いていると、ザクセンさんが代わってくれた。



今度は熊みたいな妖魔と遭遇した。
リンの炎と、リオとティアナの風の魔法で撃退。
アレンはまだ、ザクセンさんに抱っこされて、寝ていた。
さっきの戦闘でかなり疲れたのだろう。



その後も1時間に1回は、妖魔に遭遇した。
さすが呪われた大陸だ。
妖魔がどれだけいるんだろう。
やっと目覚めたアレンは、ザクセンさんに抱っこされていて、盛大に文句を言っていた。
男に抱っこされる趣味は、ないらしい。
贅沢ものだ。

「どうして、さっきの姿のままでいないの?」
「あの姿は疲れる〜 大人になったらあの姿のままでいられるだろう。」
まだ子供なのね。
「妖魔が妖魔を殺して大丈夫なの? 同族でしょ?」
「見境なしに襲うような下等な奴らと、一緒にするなよ〜」
違うのか・・。
妖魔といっても、一括りではできないのね。
「アレンは何食べるの? 妖魔って人間食べそうだけど・・。」
「人間も食えるけど、妖魔を食ったり、動物食ったり。」
私たちは食べないでね
肉食なのはわかったよ。
おいしい餌あげれば、大丈夫でしょ。
リンとリオは未だに警戒しているけど、ザクセンさんはたまに、アレンを撫でたりしている。
小動物が好きなのかも。
アレンは嫌がってるけど。

「アレンはずっと1人なの? 親は?」
妖魔がどうやって生まれるかわからないけど、猫っぽいし、親から生まれていそう。
「気がついたら、さっきの森にいた。親なんていない。」
「そっか。今まで寂しかったよね。」
私はアレンを撫でると、アレンが嬉しそうに鳴いた。
猫っぽい。
「沙羅さま、あまりかまわない方がいいのでは? それでも一応妖魔です。」
リンは心配症だなぁ。
こんなにかわいいのに。
「大丈夫じゃない? さっきも助けてくれたし。 リンも撫でてみたら?」
私に言われて、しぶしぶリンも撫でてみたけど、顔が引きつっていた。
猫とか嫌いなのかな?
リオはあれ以来何も言ってこないけど、かなり不満そう。
ときどきティアナが宥めている。
ごめんねティアナ。

今日中にこの森を抜けて、明日からは砂漠らしい。
砂漠って初めてだよ。
暑いのかな?
ラクダいないかな?
湖を見つけたので、たっぷり水を補給しておいた。
今日はここで野宿。
アレンが私の膝の上で寝ようとして、リオに引き剥がされていた。
アレンは懲りずに、また私のところに来ようとしてので、リンが結界を張って、アレンを閉じ込めた。
結界の中でうるさく騒いでいたので、ちょっとかわいそうだった。



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砂漠って、暑い・・・。
想像してたけど、想像以上だった。
すぐ喉が渇くけど、飲んでいたら水があっという間になくなってしまうから、我慢。
みんなよく平気そうに歩いていられるね。
ザクセンさんが私の前を歩いて、影を作ってくれているから、まだましなんだけど、辛い。
1時間も歩くと疲れてきちゃうよ。
森と違って、まだ妖魔には遭遇していない。
見渡す限り砂漠だから、妖魔が近づいてきたらすぐわかるはず。
アレンは、今日も黒猫の姿をしている。

「沙羅さま、大丈夫ですか?」
リンが心配そう。
リンはさすが炎の精霊とのハーフ。
涼しい顔をしている。
「なんとか・・・・。」
話すと口の中に砂が入ってくる。
無理やり声を絞り出す。
「まだ当分砂漠が続くからな。頑張れよ。何かあれば、すぐ言ってくれ。」
ザクセンさんが振り返った。
ザクセンさんも辛いはずだけど、鍛えた騎士だけあって、まだ余裕そう。
私も頑張らないと。
「無理するなよ。オイラが乗せてやろうか?」
その提案はうれしい。
でもあの姿は疲れるはずだし、何かあった時の為に温存しておいた方がいいかな。
「ありがとう。歩けなくなったら、お願いするよ。」
それから私たちは一番近くのオアシスまで歩いた。



疲れた・・・・。
オアシスに着いた私は、水をガブガブ飲んだ。
頭から浴びたいな。
誰もいなかったら、このまま水浴びしたいくらい。
全身砂だらけだ。

「オアシスはここ以外もあるんですか?」
「そうだな。この砂漠には4つあるみたいだ。次のオアシスまでは少し距離があるな。」
ザクセンさんが地図を見ながら答えてくれた。
この大陸に来てから、よく地図を見てる。
この大陸にはほとんど人が来ないみたいだけど、ちゃんと地図があってよかった。
「ただ、この地図は10年くらい前のものだから、もしかしてオアシスが枯れている可能性もあるな。」
それは大変だ。
じゃあここでいっぱい水を飲んだ方がいいね。

アレンならここに住んでたから、詳しいかも?
「アレンは砂漠によく来てた?」
「暑いの嫌いだから、滅多に来なかった。来てもここまでぐらいだ。」
使えない・・。
残念ながら道案内は期待できないね。
「リンは、暑くないの? 全然暑そうじゃないね。」
「父方の血のおかげで、気候には左右されません。」
「うらやましいな。じゃあ寒いのも平気なの?」
「はい。」
いいな。



いないと思ったら、アレンが湖に飛び込んでいた。
気持ちよさそうに泳いでいる。
ザクセンさんも服のまま、飛び込んだから、すごい水しぶきがあがった。
私も入ってしまおうかな。
服のままなら平気だよね。
この暑さなら、歩いていたら、すぐに服も乾きそう。
「私も入ってくる。」

私は助走をつけて、おもいっきり飛び込んだ。
泳ぎは得意だ。
気持ちいい〜
服のまま入ると、服が体に張り付いて、ちょっと気持ち悪いけど、今はそれも気にならない。
リオがあきれたように見ている。

しばらく泳いだ後、岸に上がろうとするけれど、服が重くて、水から上がれない。
見かねたザクセンさんが、引っ張り上げてくれた。
上半身裸のザクセンさんにドキッとしてしまった。
さすが騎士。
ちゃんと鍛えられて、無駄な肉なさそう。
服を着ない方がスリムに見える。
こういう男の人の体ってかっこいいな。

リオが私を見て、赤くなって目を反らした。
何だろう?
服着てるし。
リンが慌てて、大きなタオルで私を包んだ。
リンの顔も赤い。
「ありがとう。どうかした?」
「はい・・あの・・。」
何だろう?
「服が体にピッタリ張り付いて、下着のラインまでバッチリだったぞ。お子さまには刺激が強かったかな。」
ザクセンさんが笑って、教えてくれた。
・・・恥ずかしい。
穴があったら入りたい。
タオルをギュッと握りしめた。

「沙羅は意外と胸大きいな。抱っこされると感触いいわけだ。」
アレンがプルプル体を振って、水を飛ばしながら言った。
すぐにリオの魔法で出した石の固まりと、リンの短剣が飛んだので、慌てて避けていた。
「なんてことするんだよ。もう少しで、オイラ死ぬところだったぞ。」
アレンがブツブツ文句言ってる。
「お前が悪い。」
「口は災いの元です。」
リンとリオが、アレンと睨みあっているけど、今は止める気になれない。
アレンは抱っこされながら、そんなこと考えていたのね。
しばらく抱っこするのやめよう。






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