出発の朝、リオからネックレスを貰った。
今まで付けていたネックレスを壊されて、使い物にならなかったので、指輪をどうやって持っておこうか悩んでいたから、問題は解決。
リオが壊したから、当然と言えば当然だけど、前のネックレスより気に入ったので、この件はチャラにしよう。
さっき、リンとザクセンさんが何だかおかしな雰囲気だったのが、気になるなぁ。
今日はいよいよ出発。
まだこの大陸に来てから、奇跡的に妖魔とは出会っていないけど、これからたくさん遭遇するだろう。
どんな妖魔が来ても、びっくりしないぞ。
海で出会ったような、あんな大きな妖魔は来ないといいなぁ。
この世界に来て、それほど妖魔に遭遇してないから、妖魔がどんな形をしているのか、よくわからない。
最初は、犬を大きくしたみたいだったな。
次があの烏賊か蛸みたいなので・・・・。
今度はどんなのだろう?



あれ、猫がいる。
港のはずれに1匹の黒猫がいた。
首輪も付いていないから、野良猫かな?
この世界でペットの類は見たことなかった。

私は黒猫に近づくと、黒猫の方から警戒もせずに寄ってきた。
人慣れしているようだ。
リンが少し猫に警戒しているようだ。
でも猫だしね・・。
引っ掻かれたりしても、しれてるし。
近寄ってきた猫を抱きあげる。
10キロぐらいかな?
よく手入れされているようで、毛並みは艶々。
撫でると気持ちいい。
「あなたどこの子?」
猫の顔を覗き込む。
「にゃぁ」
猫がかわいい声で鳴いた。
かわいいなぁ。
思わず、ギュウッと抱きしめる。
「沙羅、行くぞ。」
リオがイライラしながら、向こうで叫んでいる。
ちょっとぐらいいいじゃん。
たまにはこんなかわいいもので、癒されたい。
しょうがないので、猫を下ろして、リオ達の元へ行った。

「すいません。かわいい猫がいたので、つい。」
「猫? 今度はペットがほしいのか? 城に戻ったら買ってやる。」
「いえ、けっこうです。」
そういうつもりで言ったんじゃないんだけど・・・。
振り返ると、さっきの猫がついてきていた。
困ったな。
この港は安全みたいだけど、港を出たら安全かわからないし・・。
それくらい猫にもわかるよね。

猫を気にしないようにして、歩いた。
私以外はみんな全然気にしていない。
港の境まで来たけど、まだ猫はついてきている。
これは無視だ。
無視したら、そのうちこっちに興味をなくして、家に帰るだろう。

でも全然猫は帰る気配がない。
どうしよう・・・・。
私がかまったせいかな?
「猫まだついてきてますね。」
リンが振り返った。
「うん。どうしたらいいかな?」
「そのうち自分の家に帰るんじゃないか? 動物は危険に敏感だ。危なくなる前に帰るだろう。」
そうよね。
やっぱり放っておこう。



私たちは2時間ほど歩いて、休憩をした。
見渡しのいい草原から、今度は森に入る。
その前の休憩だ。
森に入れば視界も良くないから、これから警戒が必要だ。
リンから渡された水を飲んで、喉を潤す。
ザクセンさんとリオは地図を見て相談していた。
私が座ると、いつのまにか近くまで来ていた猫が、私の膝の上に座った。
リンが慌てて、猫を下ろそうと近寄ったけど、猫は私の上で毛を逆なでて、リンを威嚇する。
猫を見たリオが嫌そうな顔をしている。
この猫にかなり好かれちゃったみたいだ。
リンと猫が睨みあっている。
何だか微笑ましい光景。
私が猫の頭を撫でると、猫は落ち着いたようで、リンを無視してくつろぎ始めた。
膝がちょっと重い。
これが長いと、足が痺れて立てなくなりそう。

ザクセンさんが、ヒョイッと猫の首根っこを掴んで持ち上げると、猫は嫌そうに暴れた。
「おい、放せよ。」
男の子の声がした。
一瞬誰の声かわからなかった。
まさか・・・。
この猫の声?
この世界の猫はしゃべるの?
「放せってば。」
ジタバタ暴れる猫。
どう考えてもこの猫の声だ。
みんなも驚いているから、やっぱり猫が話すのはおかしいのだろう。
ザクセンさんの手から逃れた猫は、空中でくるりと1回転して、地面に着地。

「あなたって、話せるの?」
「オイラは、こう見えても立派な妖魔だからな。話せるのは当たり前だろ。そこいらの妖魔と一緒にするなよ〜」
この猫が妖魔?
こんなにかわいいのに。
どう見ても無害なのに。
リンが私をかばうように、私と猫の間に立った。
リオとティアナも臨戦態勢。
ザクセンさんはのんびりしているように見えるけど、剣の柄に手を置いているから、何かあればすぐに剣を抜くつもりだろう。
「何のために私たちを追ってきたんですか?」
リンが猫の妖魔を睨んでいる。
「別に〜 面白そうだから〜 この変じゃな面白いことないし〜 その女が気に入ったし。」
その女って私ですか?
複雑だ・・・。

「妖魔のくせに攻撃してこないのですか?」
「攻撃しても面白くなさそうじゃん。メリットもないし〜」
「それではこれからどうするつもりですか?」
「そうだなぁ〜 しばらくついていってやるよ。 オイラはためになるぞ〜」
ザクセンさんにまた首根っこを捕まえられて、暴れている。
害はなさそうだ。

「名前は何て言うの?」
「名前なんてないぞ。」
「じゃあつけていい? 名前がないと不便でしょ?」
猫とか、妖魔とか呼ぶのもどうかと思うし。
「おい、連れていく気か?」
リオがびっくりしている。
「だめかな?」
「だめに決まってるだろ。」
リオに怒鳴られたが、ザクセンを見ると笑っているから、大丈夫かな。
どうせ勝手についてきちゃう気がする。

「名前は、・・・・アレンってどう?」
「いいぞ。」
名前に満足してくれたようだ。
ザクセンさんが放すと、アレンは私のところに飛び込んできた。
リオとリンがアレンを睨んでいるが、アレンは全く気にしていないようだ。
役にたつかどうかわからないけど、まぁいいか。
友好的な妖魔もいるんだね。







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