ーリオ視点ー


本当はあんな事をするつもりじゃなかった。
沙羅が心配で、心配でたまらなかった。
無事を願って、一生懸命探して、宿屋に来ていることを知って、無我夢中で帰ってきた。
それなのに沙羅ときたら、俺の気持ちなんて何にも考えずに・・・。
叔父上からもらった指輪なんかを、後生大事にネックレスにして持っていた。
沙羅が悪いわけじゃないが・・・・。
どうしても自分の気持ちが、どうにも収まらなかった。
気がついたら、ネックレスを引きちぎっていた。
さすがにあれはやりすぎた・・・。
冷静になって考えてみると、後悔しかない。
はぁ・・・。
俺ってどうしてこうなんだろう?


「リオは本当に沙羅が好きなんですね」
今までにないくらい、沙羅が好きだ。
あの妖魔に連れて行かれて、沙羅を失うと思ったら、何もできなくなった。
自分でも不思議だ。
どうしてこんなに沙羅が好きなんだろう。
容姿が特に美しいわけではない。
何か特別なものを持っているわけではない。
ただ、初めて会ったときから、放っておけなかった。
俺より年上のくせに頼りないし、鈍くさいし。
でも沙羅といると、楽しい。
素直な自分でいられた。
ルイーゼはつきあいが長すぎるせいか、家族も同然で、恋愛対象として見られない。
母上やルイーゼに心配をかけて、すまないと思うが、沙羅が心配で追ってきてしまった。
追いかけたこと自体に後悔はない。
あの大きな妖魔だって、俺とティアナがいなかったら、どうなっていたか。


「そんなに気にしているのでしたら、謝ってきてはどうですか?」
ティアナが悶々と考えている俺に、あきれているようだ。
ティアナとは、出会ってからそれほどたっていないが、半身だけあって、思っていることは筒抜けだ。
謝る・・・。
悪いのは俺だが、嫉妬してやったと認めるのは、嫌だ。
「では、新しいネックレスをプレゼントするのはいかがですか?」
それはいいな。
うん。
ここでも金さえだせば、良いものもあるかもしれない。
よし。
買いに行くぞ。



俺とティアナは早速宝飾品店に向かった。
この港ではたった1軒だけあった。
店の物はどれも、王都の倍以上の値段がついている。
今回もお金は余分に持ってきているから、問題はない。
いくつかあるネックレスの中で、1つ気になった物があった。
ピンクゴールドで作られていて、シンプルなデザインだが、沙羅に似合いそうだ。
俺はそれを買って、宿屋に戻った。

買ってきたはいいが、今度はいつ、どうやって渡したらいいか。
俺ってこんなに臆病だったか?
沙羅以外には、こんなことはありえない。
沙羅だけが俺を不安にさせる。
「じゃあ私が渡しましょうか?」
それはだめだ。
自分で渡したい。
ああもう、どうすればいいんだ。
悩んだけど、結局その日は渡せなかった。



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次の日、リンとザクセンがザクセンの部屋の前で、話しているのが聞こえた。
出ていきにくい雰囲気だ。
しばらく聞いていて、固まった。
ザクセンと沙羅が、昨夜一緒だっただと・・・。
おい、ザクセン。
こんな所にも伏兵が・・。
幸い何もなかったから、よかったものの。
迂闊すぎるだろ、沙羅。
まあそんなところがいいんだが・・。



出発の前に沙羅を呼び止めた。
「何ですか?」
「昨日は悪かった。これは代わりだ。」
やっとネックレスを渡した。
沙羅は一瞬キョトンッとしたが、すぐにわかって、受け取った。
「ありがとうございます。かわいいですね。リオ様にはイロイロ貰ってしまって、何も返せなくて申し訳ないです。」
「見返りがほしくてやってるわけじゃない。」
かなり嘘だな。
見返りはほしい。
俺だけの沙羅でいてほしい。
カイエンでも、叔父上でも、ザクセンでもなく、俺だけを見てほしい。
だから、もう怖い思いはさせないから。
妖魔からも、クラウドからも、ヴァレリーからも、俺が守るから。
ティアナが俺の後ろで笑っている。
「私もいますよ。リオが守りたいものは、私も守ります。」
そうだな。
俺たちが守るんだ。






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