ーカイエン視点ー


沙羅さまが王都を旅立たれて1週間後、リオ様がいないことが発覚した。
1週間の間1度も部屋の外に出ていないが、侍女たちが定期的に声をかければ、
返事はあるということだったので、誰も確認に行かなかった。
1週間後、ルイーゼ嬢が強引にリオ様の部屋に入ったところ、ベッドにはリオ様に声だけそっくりで、あとは似ても似つかない少年が居たという。
その場でルイーゼ嬢は持っていた扇を、怒ってへし折ったという話だ。

現在王都全域を捜索中だが、見つからないだろう。
沙羅さまを追っていったに違いない。
全く・・・。
私も行きたかったというのに。
ザクセンとリンの腕は間違いないが、それとこれとは別問題だ。



夕方、リオ様の手掛かりは何もないことを女王陛下に報告に行った。
女王陛下の後ろには、レオナー様が控えていた。
「もうしわけありません。リオ様の手掛かりはありませんでした。また明日捜索します。」
「全く仕方のない子です。もう捜索の必要はありません。そろそろ沙羅と合流しているかもしれませんね。」
女王陛下は大きなため息をつかれた。
本当に仕方のないご子息だ。
家出から帰ってきたばかりだというのに。
女王陛下に心配ばかりかけている。
もう少し、次期国王だという認識を持ってほしいものだ。
これからが不安になる。
沙羅さまとの噂も気に食わないが・・・。
私は報告だけして、すぐに退席した。
この苛立ちを何かにぶつけなければ、気がすまない。



ちょうどいいところにまだ残っていた近衛騎士団の面子を見つけた。
「これから訓練をする。全員訓練場に集合だ。」
私は彼らに叫ぶと、訓練場に向かった。
騎士たちはすぐに集まってきた。
憂さ晴らしもできるし、騎士たちも鍛えられて一石二鳥だ。
騎士たちに腕立て伏せ100回、腹筋100回、ランニング10周を命じた。
訓練の最初にいつもやらせていることだから、それくらいでくたばるような奴はいない。
その後、好みの武器で模擬試合をする。
私は気に入った騎士と模擬試合し、相手が倒れるまで手加減なしで戦う。
今のところ私に勝てる見込みがあるのは、ザクセンぐらいだろう。
早く他も育ってほしいものだ。

15人ほど相手にしたところで、珍しい人物がやってきた。
珍しく女連れじゃないカール殿下だ。
殿下は血と泥で汚れた私を見て顔を背けた。
「このようなところに何か御用ですか?」
「君に用があってね。」
あまりいい用ではないだろう。
仕方なく騎士たちの訓練を終了して、解散させる。
騎士たちはほっとしたように去って行った。

「私に用とはなんでしょう?言って下さればこちらからお伺いしましたのに。」
女性と派手に遊びまわる殿下が、好きではない。
いままでできるだけ、関わらないようにしてきた。
「僕と剣の試合をしないかい?」
「剣ですか? 失礼ですが剣は今まで扱ったことはおありですか?」
「もちろんあるよ。ぼくも結構な腕前なんだよ。」
まさか試合を申し込まれるとは・・。
昔と違って、今の私に試合を申し込むような命知らずはいない。
「ですが、万が一殿下を傷つけるようなことになれば・・・。」
王族を傷つけるわけにはいかない。
「ちゃんと姉上の許可は取ってあるよ。」
止めてください女王陛下・・・。
「僕も本気になってる女性がいてね。今回は彼女を賭けて勝負したいんだけど、どうかな?」
殿下はニッコリと笑っている。
嫌な感じだ。
「その女性とは?」
「沙羅だよ。」
彼女は物じゃない。
できればこんな試合受けたくないが、女王陛下が許可したのだ、何か考えがあるのだろう。
「お受けしましょう。全力でよろいいんですね?」
「もちろんだよ。都合は君に合わせるよ。」
殿下と試合とは大変なことになったな。
できるだけ傷つけずに勝つしかない。
負けるわけにはいかない。



次の日女王陛下に会いにに行った。
運良く朝一番に謁見を許された。
「どうして試合を許可されたのですか?」
「あの子が1人の女性に執着するなんて、初めてでしょ。一生懸命懇願するものだから、つい許可してしまったわ。あなたには悪いけど、相手をしてやってちょうだい。」
「手を抜くつもりはありませんが、よろしいですね。」
「もちろん、あの子があなたに勝てないのは、わかってるわ。気を使わずに、勝ちなさい。」
「わかりました。」
女王陛下に許可も頂いたし、カール殿下には負けていただく。
私に決闘を申し込んだことを後悔して頂こう。







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