翌日には仮縫い状態のドレスが出来上がったので、試着してみたけど、動きやすくて、いい出来だった。
我ながらいいアドバイスしたわ。
サイズを測ってもらった覚えがなかったので聞いてみると、女王との謁見の時に来たドレスから推測したそうだ。
さすがプロ?
仮縫いのドレスで数歩あるいてみると、マリーから歩き方の合格はもらえたので、ちょっとほっとした。
「これなら歩くのは問題なさそうですね。あとはダンスの練習しましょうか。」
ダンスですか・・・。
これはさすがにやったことない。
やっぱり社交ダンスってやつだよね?
あと6日で覚えられる自信、全くないよ。


王宮の1室で壁一面に鏡が張ってある部屋に案内された。
すでに男性が1人いて、私を見ると優雅にお辞儀をしてくれた。
きれいなお辞儀の仕方だな。
これを参考にしないとだめなのかな。
「沙羅様のダンスのお相手をさせていただきます。よろしくお願いします。」
40歳くらいの姿勢のいい紳士。
「よろしくおねがいします。私ダンスは初めてで・・。」
「大丈夫です。」
顔はにこやかだけど、なぜか笑顔が怖かった。



初日は怒られっぱなしだった。
足を気にしていると、姿勢が悪いと怒られ、姿勢に気をつけると、先生の足を踏みまくるの繰り返しで、一向によくならない。
私ってダンス向いてないね。
ああ、気が重いよ。
先生の足腫れてるかも。
なんでこんな苦労しなくちゃいけないんだか。
衣食住を面倒みてもらってるから文句言えないけど。
段々注意力散漫になってきたのがわかったのか、練習が終了した。
「今日はここまでにしましょう。また朝日も頑張りましょう。」
先生呆れてないかな?


先生が部屋を出たので、私も部屋を出たけど、自分の部屋への帰り方がわからない。
通ったような気がする廊下を進むものの、全くわからなくなってしまった。
迷子だ。
城内で遭難死は嫌。
私はそれから2時間ほどあちこち歩き回り、練習で疲れた足をさらに酷使したため、疲れて廊下の片隅に座り込んだ。
こんな時に限って誰にもすれ違わない。
もう1歩も歩きたくないと途方にくれていると、後ろから声をかけられた。
「こんなところに座ってどうかしましたか?」
振り返るとティアナが立っていたので、ティアナに抱きついた。
これで助かる。
いいところで会った。
ティアナが女神様に見えるよ。
「自分の部屋の場所がわからなくなってしまいました。」
「あら、それは大変でしたね。」
ティアナはフフっと笑っているけど、気にしない。
こんなに広い城が悪いのよ。
ティアナが先導してくれるので、ついていく。
「リオが会いたがっていましたけど、今からでもかまいませんか?」
「できれば後日でお願いします。」
私は悪いけど、即答した。
「残念です。」
申し訳ないけど、今リオに会ったら八つ当たりしてしまいそうだ。
「パーティーの準備大変そうですね。リオも心配してました。」
「できれば欠席したいです。」
「でもリオは出席してほしそうでしたから、頑張って下さいね。沙羅のドレス姿楽しみにしてますよ。」
やっぱりリオ中心なのね。
「リオに噂を否定してくれるように頼んでもらえませんか?」
「リオには沙羅がお似合いだと思いますよ。リオもまんざらじゃないみたいですから、無理です。」
あっさり言われてしまった。
ちょっとひどくない?
「その噂を流したのは私ですから。」
私はポカンとしてしまった。
「あのままだといつまでたっても前進しそうじゃなかったですから。」
極上の笑みを浮かべるティアナに少し殺意がわいた。
おそるべしティアナ。


私は無事部屋に帰れたが、複雑な心境だ。
マリーは練習部屋まで迎えにきて、私がいなかったので探し回ったらしい。
部屋でたっぷりお説教された。
明日から気をつけよう。
今日は本当に疲れたよ。
たっぷり寝て、明日も頑張らないと。
でも誰のために頑張るのかな?



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ダンスは、パーティー前日にはなんとか踊れるようになった。
気を抜くと足を踏んでしまうけど、1回くらいならご愛敬だろう。
ドレスは出来上がってるはずだけど、当日のお楽しみと言われ、まだ見せてもらっていない。
あの迷子以来、地図を書いてもらって、常に持参するようにしている。
時間ができたので、庭園を散歩していると、楽器の音が聞こえてきた。


演奏の邪魔をしないように、そぉっと近づく。
水色の髪に水色の瞳の青年が竪琴を弾いていた。
しばらく聴いていると、目が合って演奏が止まった。
「お邪魔してすいません。」
私のせいで演奏止めちゃったのかな?
「いいえ。そろそろやめようと思ってましたから。」
よかった・・・。
「演奏素敵でした。」
竪琴の生演奏初めて聞いたよ。
指痛くないのかな?
「今日のパーティーで演奏に呼ばれたのですが、何かしないと落ち着かなくて。」
「パーティーの演奏楽しみです。」
私たちはしばらくとりとめのない話をして暇をつぶした。
こうゆう時間がけっこう好きだ。


「このお城の方ですか?」
「ちょっと前からここに住んでますけど。」
「じゃあ、黒髪黒眼の沙羅って女の子知りませんか?」
私のこと?
悪い人に見えないけど、どうして?
こんな人は1度会ったら絶対忘れない。
狙われているらしいから、警戒は必要。
幸い鬘のおかげでバレテいないし。
「その子のことどうして知りたいのですか?」
「知人に頼まれたんです。知人はクラウドっていうんですけど、昔助けられたことがあって。別れの挨拶もなしで別れたので心配していました。」
クラウドの知り合いなら、大丈夫かな。
心配してくれてたなんてうれしいな。
クラウドはやっぱり優しいや。

「沙羅は私です。」
私は鬘を取った。
「クラウドは元気なんですか?」
さすがにいきなり鬘を取ると、びっくりしていた。
わかってもらえたようなので、また鬘を被りなおした。
「元気ですよ。今も依頼に走り回ってますよ。あなたが元気そうでよかったです。」
青年が懐から三日月が付いたピアスを取り出して、私に渡してくれた。
どこかで見たことあるピアス。
どこだったかな?
「クラウドからです。お守りだそうです。」
「いいの?」
「危なっかしいので、持っていると少しはましになるだろうと言ってました。」
そういえばクラウドがしてたやつだ。
ほしかったんだよね。
心配してくれるのは、うれしいけど、何げにひどい。
「あとはまた会えるおまじないみたいなものですね。大切に持っててあげて下さいね。」
へぇ〜、そういう意味もあるんだ。
大事にしなきゃ。
「ありがとうございます。」
「いえいえ。クラウドが大切に思ってるお嬢さんに会えてよかったです。どんな人か気になっていたんです。」
平凡すぎてがっかりしてないかな?
クラウドもてそうだし。
「私はそろそろ戻りますね。また明日のパーティーで。」


青年が立ち去ると、ティアナが茂みから現れた。
「贈り物なんて、クラウドもなかなかやりますね。でもリオも負けませんから。」
仁王立ちして、拳をギュッと握って宣言すると、すぐに行ってしまった。
ティアナいつからいたのかな?
また変なことしないといいけど。
嫌な予感がする。
余計なことはやめてね。
ティアナっていい人なんだけど、変わってる。
精霊ってみんなあんな感じなのかな?
半身ってだけあって、リオのこと大事に思ってるのはわかるんだけど・・・・。
周りの迷惑を顧みずって感じ。


部屋に戻ると、早速リオからの贈り物が届いていた。
中身は真っ赤なバラの鉢植え。
ティアナが何か言ったのだろう・・・。
バラは好きだからうれしいけど、リオも止めてよね。
ますます噂に信憑性がでちゃうよ。
マリーはさっきからめちゃくちゃご機嫌だし。
噂は全然消えそうもないよ・・・。
こうなったら、明日はっきりとリオに釘をさしとかないとね。
ティアナの暴走も止めてもらわなきゃ。




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