連れて来られたのは女王の謁見室。
マリーは入れないらしく、私一人。
マリーが後ろでガッツポーズしている。
こういうポーズはどこでも共通なのね。
扉の前に立つと、扉の前の衛兵さんが開けてくれた。
謁見室の一番奥に女王陛下と、レオナーさんがいる。
赤い絨毯の上をゆっくり歩く。
謁見室は広いから、女王陛下まで遠い。
こんなドレスじゃなかったら走るんだけど、今は転ばずに歩くだけで一苦労。
気を抜くとうっかり、ドレスの裾を踏んで転びそう。
ここで転ぶのは恥ずかしいから遠慮したい。


「ようこそ。私はエリーゼです。話はリオとレオナーから聞いています。まずは、リオのことお礼を言います。」
さすが女王陛下って感じ。
どことなく威厳があって。
すっごいオーラ。
「いいえ私は迷惑しかかけてません。とてもお礼を言われることなんて何も。」
本当に何もしてないよね・・。
ここまで守ってもらって、養ってもらって・・・・。
「あの子を城に戻らせてくれたことで十分です。1年前に家出してから、連絡1つ寄越さなかったのです。全く薄情な息子です。」
息子ってことはつまり、リオのお母さんだよね。
リオは王子様かぁ。
偉そうなのも、お城の人たちの態度も納得。
王子が家出なんて普通しないんじゃあ・・。
もう呼び捨てはやめよう。
今までかなり失礼なことしてたんだね。
最初に言ってくれたらよかったのに。


「それから貴方の一族が亡くなった件です。謝っても仕方ないことですが、私の力が及ばなかったばかりに申し訳ないことをしました。私は女王として民を守らねばならなかったのに、救えなかった。」
女王に頭を下げられて、びっくり。
そんなことされたら困るよ。
「私は女王陛下が思っておられる少女じゃありません。ですから謝罪は必要ありません。」
レオナーさんが何か言いかけたが、女王が手で制した。
手で黙らせるなんて、さすが女王って感じだね。
「あなたがその少女かどうかの議論はまたにしましょう。はっきりしていることは、あなたは今狙われているということです。あなたが安全になるまで、城に客人として滞在して下さい。その後については、また考えましょう。いいですね。」
有無を言わせぬ迫力があった。
安全になるっていつなんだろう?
しばらくは城にいてもいいってことね。
申し訳ない気がしないでもないけど、元をただせば悪い魔法使いを野放しにした女王陛下のせいと考えよう。
かなり無理があるかな?
いくらなんでも女王陛下に責任転嫁しすぎ?
「わかりました。よろしくお願いします。」
「では散歩でもしませんか?道中でのリオの様子を聞かせてほしいのです。」
「喜んで」
それくらいならお安い御用だ。


私と女王は2人で、綺麗に手入れされた庭園を散歩した。
リオの話をしているときは、普通のお母さんという感じだったから、遠慮なく話せた。
リオの女装には驚かれた。
女王陛下も見たかったみたい。
ちょっとチクってるような気分になったが、まあいいよね。
「私とリオ様の噂何とかならないですか? 侍女さん達にものすごい勘違いされてるみたいで。」
「迷惑かしら?」
「私よりリオ様の方が困るのでは?」
王子様だったら、婚約者の1人ぐらいいるんじゃないの?
そういう人に噂が知られたらまずいよね。
「あの子も情けないわね? 全然ダメじゃない。」
女王がぼやいていたが、関わってはいけない気がしたので、スルー。
侍女さんが女王陛下を呼びに来たので、私は部屋に戻り、やっとドレスと鬘から解放された。


「女王陛下との謁見はいかがでしたか? ずいぶん話が弾んでたみたいですね。 これでリオ様との仲も一安心ですか?」
マリーから聞かれたけど、笑ってごまかしておいた。
早く噂消えないかな?
女王陛下には言えなかったけど、ちょっと迷惑。
だいたいリオも否定してよね。
私が否定するより、リオが否定する方が、みんなちゃんと聞いてくれると思う。



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翌朝、マリーはニコニコしながらやってきた。
何かいいことでもあったのだろう。
「1週間後にリオ様のお帰りを祝うパーティーが決まりました。久しぶりに華やかなものになるそうです。」
パーティーか。
昨日の格好はもうしたくないから、参加はしたくないけど、見学はしてみたいな。

マリーは食事を片づけると、身支度を手伝ってくれた。
この世界の服の着方はまだ慣れていなくて1人だと難しい。
以前はティアナが手伝ってくれていた。
薄く化粧をして、最後に鬘を被る。
昨日の鬘はドレスに合わせて、髪飾りがイロイロ付いていて重かったけど、今日はシンプルなのでまだ軽い。
黒髪はやはり隠した方がいいみたいだ。
「今日は礼儀作法の勉強をしていただきますね。食事のマナーは申し分ないですけど、昨日のドレスの歩き方では・・。」
食事中しっかり見られていたのは、錯覚じゃなかったのね。
もうドレス着たくないから、礼儀作法なんて無用だと思うけど。
「もちろん沙羅様もパーティーに参加していただくからです。パーティーにはリオ様目当ての御令嬢もたくさん出席されます。負けちゃダメです。」
私としては負けても全然かまわないよ。
「出席しないとダメですか?」
「はい女王命令だそうです。」
ニッコリと断言されてしまった。
逃げ道なし。


この日からパーティーに向けて準備が始まった。
私の与えられた部屋は、寝室とトイレと浴室ともう1部屋が続き部屋となっている。
入ってみるとアンティーク風の家具の置いてある応接室だった。
マリーにここで待っているように言われたので、座ってお茶を飲む。
しばらくすると布地をたくさん抱えた商人らしき人と、マリーと数人の侍女さんがやってきた。
商人は床に布を広げ始める。
「好きな色はありますか?」
「特にはないです。」
どうやら私のドレスの生地らしい。
色とりどりできれいだ。
「沙羅様には赤が似合うと思うの」
「リオ様は何色が好きかしら?」
「白もいいかもしれませんね。」
マリーと侍女さんたちは、あれやこれやと布を手に取りつつ相談している。
楽しそうだ。
私も一緒に参加したいけど、参加したらいけない雰囲気だったので我慢。


色が決まったらしく、次はデザイン画を見ながら相談始めた。
私はちらっとデザイン画を見たけど、どれもプリンセスラインで、歩きにくそうだ。
もっとシンプルな形のドレスが希望。
私はデザイン画の近くにあったペンと紙を拝借して、マーメイドラインのドレスを書いた。
少し前に義姉の結婚式のウェディングドレスを、オーダーメイドした時に、一緒に考えたので、デザインはすぐイメージできる。
「こんなデザインは無理ですか?」
おずおず書いたデザイン画をマリーに渡した。
「斬新ですね」
他の侍女さん達と眺めている。
やっぱり無理かな。
「これいいんじゃないですか。インパクト十分ですよ。」
「ちょっと地味な感じに見えますけど、色とアクセサリーで何とかなります。」
「おもしろそうですね。」
やったね。
これで少しは歩きやすくなりそうだ。
ドレスが決まったのは夕方だった。


やっと落ち着いたので、気晴らしにテラスに出てみると、綺麗な夕日が見えた。
街でクラウドと見た夕日も綺麗だったな。
クラウドは今どうしてるかな?
もう次の依頼に行っちゃったよね。
宿屋の食堂で別れてから、1回も会ってないから、さよならも言えなかった。
リオかティアナが私の事伝えてくれていたら、いいんだけどなぁ。
クラウドと王都観光したかった。
また会えるといいな。
私のこと忘れられてないといいけど。
次に会ったときは彼女連れだったら、ちょっと嫌。
クラウドなら彼女がいても全然不思議じゃないよね。
彼女の話は聞いてないなぁ。
別にクラウドの彼女になりたいってわけじゃないよ。
でも一緒にいて楽しいし、疲れない感じがいい。
男友達って感じかな?



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