翌日も晴天。
フードを深く被って街へ出掛けた。
もちろん昨日の下着も身に付けた。
昨日洗濯したけど、さすがにまだ乾いていないから。
宿屋を出てまず目についたのは、市場。
市場の前の噴水に座って市場の様子を眺める。
活気があって、みんな楽しそう。
ここは平和なんだろうな。
お腹がキュウッと鳴った。
朝ごはん食べてなかったな、何かおいしそうなもの探そう。


しばらく物色していると、クレープみたいなものを歩きながら食べている人とすれ違った。
あれにしよう。
金貨足りるよね。
店の前に来たものの、みんなが払っている硬貨と渡された硬貨が違うのでどうしたものかと、躊躇ってしまった。
食べたいんだけど・・・。
これで買えるのかな?
本当においしそう。
おいしそうな匂いがして、さらにお腹がへってきた。

「あれ食べたいのか?」
後ろからクラウドに声をかけられた。
いつ来たのか全然気がつかなかった。
ウンウンとうなずくと、クラウドが2個買ってきて、1個私にくれた。
「ありがとう」
私はすぐに齧りついた。
おいしいです・・。
クレープにハムとレタスとチーズみたいなものが包んであった。
「これくらいいいさ。」
気前いいなぁ。
「いつからいたの?」
「店の前で悩んでた時からかな。どこか行くのか?」
私ってそんなに食べたそうにしてたのかな?
恥ずかしい・・・。
「特にあてはないんだけど、なんとなくブラブラ。クラウドは?」
「そっか。じゃあおまえ1人だとあぶなっかしいし、つき合ってやるか。」
まるでデートみたいだね。
残念ながら今まで男の人とデートしたことない。
しかもクラウドはかっこいいし。
うれしい。


私たちは街を散策。私にとってはめずらしいものばかりで、常にキョロキョロ。
歩いている人のかっこうとか仕草もチェック。
目指せ平凡な異世界人。
そんな私に文句言わずクラウドはつき合ってくれてる。
私は完璧おのぼりさんだ。


最後にクラウドが連れてきてくれたのは、街が一望できる小高い丘だった。ちょうど夕日に照らされてきれいだったので、私たちは座って景色をみることにした。
「今日はありがとう。楽しかったよ。」
「いい暇つぶしになったから、いいさ。」
「クラウドはどうして1人で旅してるの? 危ないよね? 話したくなかったら話さなくていいけど。」
クラウドはしばらく街を見たまま話そうしない。
やっぱり言いたくないのかな?
聞いてほしくないことの1つや2つあるよね。
まずかったかな・・。
「俺は両親を妖魔に殺された。妖魔を殺したら、復讐にもなるし、いい稼ぎにもなる。一カ所にとどまるより、旅をした方が妖魔の討伐依頼は多いからな。」
「ごめん。やっぱり聞かない方がよかったよね。」
クラウドって明るいから、暗い過去があるなんて想像してなかった。
「もうすんだことだ。妖魔に襲われることなんてよくあることだ。」
「こんなに平和そうなのに。」
「街は高い城壁もあるし、滅多に妖魔は来ないが、街を出れば、妖魔なんかそこらじゅうにいるさ。」
じゃあ王都まで危険じゃん。
私は青くなる。
「王都までは俺もいるし、ティアナもリオもいる。大丈夫だろ。」
クラウドが笑ってくれると安心する。
「そろそろ日も暮れるし、戻るぞ。」
今日もよく歩いたな。
疲れたけど、楽しかった。
クラウドから見たら私なんて妹みたいなものだろうけど。


宿屋の近くまで戻って来たところで、前を歩いていたクラウドが突然止まったので、ぶつかりそうになった。
「どうかしたの?」
「ここから宿屋までは1本だ。振り返らずに走れ。宿屋に戻ったらリオ達の部屋に行け。」
クラウドが厳しい顔をしていたので、よくわからないけど、全速力で走った。


宿屋の前にはティアナが待っていてくれた。
「遅いから、心配しました。さぁ中へ。」
「まだクラウドが来ていません。走れって言われたんですが。」
「クラウドならすぐ戻ってきますよ。」
しばらくティアナと押し問答をしているとクラウドが帰ってきた。
服に血がついていたので、もう少しで悲鳴をあげるところだった。
「怪我したの? 大丈夫?」
「怪我はしてない。返り血だから、気にするな。」
返り血っていったい何があったんだろう?
この街って今日見た限りは、平和そうだった。


私はティアナ達の部屋に行き、クラウドは着替えてからやってきた。
みんな浮かない顔をしている。
「どうやら沙羅に追っ手がかかったみたいなんです。」
「黒髪黒眼の15、6の女を連れてきたら、賞金がでるらしいな。昨日街に入る時に見られたんだろう。」
「いったい誰が?」
「ヴァレリーに決まってますわ。さすがに逃げたのもばれてるでしょう。沙羅はわたくしたちが守りますから、大丈夫ですわ。」
どうしてそこまで私を追うんだろう。
さっぱりわからない。


念のためリオと代わって、ティアナ達の部屋で寝ることになった。
寝れるか心配だったけど、ベッドに入ったら朝までぐっすり寝れた。
私って神経図太い?



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朝早くに馬車で街を出た。
昨日クラウドが手ひどく追い返してくれたおかげか、賞金狙いの輩に出会うこともなかった。
馬車は日中ずっと走り続け、夜は危険なので止まって、薪をたいて薪を囲んで寝た。
運がよかったのか道中は何事もなく王都まで来れた。
王都に着いたのは真夜中だったため、ひっそりと静まりかえっていた。


宿屋で朝をむかえ、王都見物しようと思って早起きしたけど、あいにくの雷雨だったので、また寝ることにした。
リオ達は朝から用事があって出かけると聞いている。
こんな天気じゃあ出掛けるの大変そう。



次に目が覚めたのは、昼過ぎだった。
ひさびさによく寝たな。
宿屋の1階の食堂で食事をしていると、出かけていたらしいクラウドが帰ってきて、隣の席に座った。
「おかえり。ひどい雨みたいだね。せっかく王都もあちこち見たかったのに残念。どこか行ってたの?」
「王都は妖魔の討伐依頼も多く集まるから、今依頼を見てきたところだ。」
「よさそうな依頼あったの?」
「まあまあだな」
機嫌がよさそうだから、いい依頼いっぱいあったのかな。
クラウドが依頼を受けたら、ここでさよならだ。
ちょっとさみしい。
でも私もレオナーさんに会ったら、家に帰れるだろうし、しょうがないか。
ごはんを食べながらたあいない話をして、それぞれ部屋に戻った。


夕方部屋にやってきたリオを見てびっくり。
リオの髪は短くなっていて、男の子の格好をしていた。
「リオその格好は?」
「普通にもどしただけ。」
口調まで変えるんだね。
「似合ってるね」
「当たり前」
かわいくないな?
女装してる方が何倍もかわいいんじゃないの?
「明日レオナーに会う約束取り付けてきたから、朝から城に向かう。準備しとけよ。」
偉そうなのは地みたいだ。
「ありがとう。早かったんだね。レオナーさんって偉い人みたいだから、もっと時間かかるのかと思ってたよ。」
「早い方がいいだろ。それとももっとゆっくりの方がよかったのか?」
なんか機嫌わるくなっちゃった。
「いえいえ、うれしいです。」
私は慌てて言った。
家に帰れるのはうれしいに決まってるよ。
私のために無理してくれたのか?
「じゃあ明日」
それだけ言うと、さっさと出ていった。


明日やっと帰れるんだ。
短かったけど、ここまで楽しかったな。
ベッドに入って寝ようと思ったけど、寝すぎたせいかいっこうに眠くならない。
仕方なく座って窓の外でも眺めてみる。
この世界に来てなんだか色々あったような気がするけど、意外と短かったな。
最初に会ったのがリオみたいな人でよかった。
私をさらった元凶のヴァレリーって魔法使いには、文句の1つも言いたいけど、会ったら何されるかわからないから、そのまま会わない方がいいよね。
帰ったらみんなどうしてるかな?
夏休みどれくらい終わったかな?
もしかして、もう新学期始まってたりして・・・。
それは困るよ。
夏休みの宿題一切してないし。
全然遊んでないじゃん。
こういうスリリングな夏休みもありと言えば、ありなのかな・・・。
死にそうな目に合わなかったら、ありだったかも。
ここでの思い出にクラウドにあのピアス貰えないかな?
三日月型のピアス、すごく綺麗だったんだよね。
やっぱりあつかましいか・・・・。
そのうちウトウトし始め、座ったまま寝てしまった。
最後のお姫様ベッドだったのに、もっと堪能しとくんだった。




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