リオが不機嫌なのが気になるけど、今日も街に向けて出発。
無事に着けるといいな。
私がこっちにきてもう4日たったけど、みんな心配してるだろうな。
捜索願いと出されてたりして。
テレビに両親とか、友達とか出てるとか。


「リオはどうかしたんですか? まだ昨日のこと怒ってるのかな?」
リオは根にもつタイプみたい。
「う〜ん。リオはあんなだから、男の格好してもよく女の子に間違えられるんです。だからクラウドさんみたいな男の人にコンプレックスがあるみたいです。」
リオもいろいろあるんだね。
「だったらどうしてわざわざ女の子の格好なんかしてるんですか?」
「どうせ間違われるなら最初から女の子の格好してた方が、いいかなと思って説得したんです。かわいいでしょ。私がああいう格好したいんですけど、似合わなくて。」
確かにティアナはフリフリのドレスよりは、シンプルな感じの方が似合いそうだ。
リオの格好はティアナの趣味だったのか・・。

ティアナと内緒話している間に、競い合うように歩いていたリオとクラウドからずいぶん離れていたので、走って追いかけた。
リオは必死だったのか、私たちが遅れていたことに全然気が付いていなかった。
クラウドはリオの敵対心が面白いのか、なんだか楽しそう。
大人の余裕だね。


石に躓いて転びそうになったところを、クラウドに支えられて転ばずにすんだ。
ぼそっとつぶやかれた。
「戦闘には向いてなさそうだな。」
私は鈍くさいし、運動神経もよくない。
ここに来てから、すでに何回か転んでる。
この前みたいな妖魔が出てきたら、足手まといにしかならない。
自分でよくわかってるから言わないでほしい。
「私は平凡な一般市民なので何もできません。」
ちょっと言い方がきつくなってしまった。
クラウドは私がそんな反応をすると思っていなかったみたいで、ちょっとびっくりしていた。
「女の子なんだし、何もできなくていいと思うぞ。でも変わった取り合わせだな。魔法使いと精霊はわかるが。沙羅は旅なんかするタイプじゃないだろう。」


私はこれまでの経緯を説明した。
異世界は信じてもらえないとおもったので、遠くの街からさらわれたことにしておく。



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「災難だったな。俺はあちこち旅してるけどニホンなんて聞いたことないし、よっぽど辺境なんだな。髪と眼の色もめずらしいし。」
私を始めてみたときのクラウドって、そういえばちょっとびっくりしてたっけ。
「街に着いたら髪を隠せる服を買った方がいいですね。」
「隠さないといけないんですか?」
「ええ。数年前に黒髪黒眼の一族は絶滅したとされていますから。」
絶滅って穏やかじゃないな。
私は天然記念物級?
「戦争でもあったんですか?」
「いいえ。その一族の血を飲めば不老不死になれるという噂が広まったので、ほとんど捕まって殺されたんですよ。」
怖い・・。
殺されて、血を飲まれるなんてぞっとする。
暗い顔をして俯いていると、クラウドがポンポンと頭を叩いて、大丈夫と言ってくれた。
「今では噂は真っ赤な嘘とわかっているので、大丈夫だと思いますが、おかしな輩がいないとも限りませんからね。」
髪は絶対隠すぞ。
元の世界に帰れるまで、死ぬなんて絶対ごめんだ。


「王都のレオナーなら沙羅を帰せるかもしれませんわ。」
今まで黙っていたリオが、考え込むように言った。
「その人誰ですか?」
「女王付きの魔法使いで、唯一ヴァレリーに対抗できる人物ですわ。」
「そんなお偉い魔法使いに会えるのかよ?」
「わたくしなら会わせられますわ。」
リオがえっへんと胸をはる。
「リオはお貴族様かよ。」
「まあそんなものですわ。」
リオは本物のお嬢様だったのね。
あ、お坊ちゃまか。
急にリオが頼もしく見えてくるから不思議だ。

今のところ帰る方法は、そのレオナーさんしかわからないみたいだし、目指すわ王都。
王都がどこか知らないけどさ。
「王都までは遠いんですか?」
「徒歩だと1ヶ月ほどかかりますけど、馬車なら1週間で着けますわ。街に行けば馬車くらい見つかるでしょう。」
まだ先は長いけど、何とか帰れるかも。
頑張れ私。


それから私はリオとクラウドに転ばないように助けられながら、街に向かった。
2人は競うように助けてくれた。
そんなことで競うなよ〜。
助けてもらって文句はない言えないけど。



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やっと街に着いたけど、私は宿屋でお留守番。
すれ違う人がみんなが、私たちを振り返ったのは、私のせいだと3人が主張したからだ。
リオはかわいいし、ティアナは美人だし、クラウドはかっこいいし、みんなが見てたのは私以外だと思うけど。
まぁ私の髪と目が天然記念物級という話だから、私を見ていた可能性もないとは思わないけど。


クラウドは暇だから王都まで一緒にいくことになったので、同じ宿屋に泊まっている。
私とクラウドはそれぞれ1部屋ずつ、リオとティアナは2人で1部屋借りている。
私たちが泊っている宿屋はかなり上級だと思う。
豪華な調度品ばかりで、壊したら大変だと思って気を使うけど、お姫様気分が味わえる部屋にウキウキ。
やっぱり天蓋付きのお姫様ベッドは女の子の憧れだよね。
この部屋に来て一番にベッドに飛び込んでみたら、フカフカで気持ちよかった。
今日は気持ちよく寝れそう。
1回こんなベッドで寝てみたかったの。
私のテンションはこの宿屋に入って上がりっぱなし。


ベッドでウトウトしていると、ノックされたので眠気眼で扉を開けた。
ティアナがマントが入っていると思われる紙袋と食事を運んでくれた。
この世界に来て初めてのまともな食事は、パンと野菜が煮込まれたスープだった。
おいしいじゃん。
ほんと今は幸せ。
「出発は明後日になりましたので、今日と明日はゆっくり休んでください。何か必要な物があったら言って下さいね。」
明後日かぁ。
明日もこのベッドで寝られるね。
「どうして私なんかの為にいろいろしてくれるんですか? この宿もかなり高そうですね。」
「リオがあなたを気に入ってるからです。リオが女の子を気に入るなんて初めてなんです。ずっと大人ばかりの中で育ったせいか、わがままで人との接し方もよくわかっていないので、リオにはいい勉強になってますよ。そろそろ王都にも帰らないといけないころなので、ちょうどいいです。」
リオにもイロイロあるんだね。
複雑な家庭の事情?
貴族って大変なのかもね。

「明日は街を見て回りたいんですけど、いいですか?」
街に着いてすぐ宿屋だったから、気になってたんだよね。
せっかくだから街の様子を見てみたい。
「いいですよ。マントは着ていって下さいね。一緒に行きましょうか?」
「ちょっと見に行くだけなのど、1人でも大丈夫だと思います。」
「じゃあこれを持って行って下さい。あと路地裏は行かず、大通りだけ歩くようにして下さいね。」
ティアナは金貨の入った袋をくれた。
ずっしりと重たい。
かなりの額だろう。
あっさり渡してくれたけど、貴族ってお金持ちなんだね。
ティアナは街についてイロイロ注意をしてから部屋に戻った。


紙袋には水色のフード付きマント、マントと同じ色の動きやすそうな服、ブーツが入っていた。
制服にマントは合わないから助かった。
制服も靴もここに着てからずいぶんくたびれちゃったし、ティアナに感謝。
制服も靴もどうするか悩んだけど、制服は洗濯して持っていくことにして、靴は捨てることにした。
荷物が多いと困るからね。
ティアナの部屋に向かってしばらく合掌。
着替えて鏡の前に立つ。
結構似合うよね。
気分はコスプレ。
鏡に向かっていろいろポーズをとってみる。

かなり夢中になっていたため、ノックの音に気付かなかった。
ティアナが入ってきて、鏡の前の私と目が合う。
恥ずかしい・・・・。
ティアナは微笑んで私に小さな紙袋を渡してくれた。
なんだろう?
まだあったんだ。
受け取って開けてみると、下着だった。
しかも普通の下着じゃなくて、どちらかというと勝負下着な感じ。
初めてみたよTバックとか・・・。
私にこれ着ろってことよね?
ティアナは下着を見る私を、ニコニコして見ている。
「ありがとうございます。」
もちろん下着の替えもなかったから、ありがたいけど、普通のでよかった。
たぶんティアナに悪気はないよね?
もしかして、この世界にはこんな下着しかないのかな?
ティアナは部屋に戻ってから試着したら、下着はぴったりだった。
いつの間にサイズ測ったんだろう?
疑問に思いつつベッドへ。
今までの疲れが貯まっていたので、すぐに眠くなった。




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