リオが女装趣味の美少年と判明した次の日も、私たちは街を目指して徒歩で移動。
女の私よりドレスが似合うリオにちょっと複雑だけど、人の趣味に文句は言えない。


「人さらいってよくあるんですか?」
「滅多にないですよ。この前はたまたま用事があってリオと離れていたので、狙われたみたいですね。半身を捕まえて、精霊を操ろうとするやからもいますから。でもよっぽど力に自信がないとやらないですよ。しばらく離れるつもりはないので安心してください。」
ティアナって優しいな。
なんだかお姉さんみたいで安心できる。
私はお姉さんほしかった。
姉弟みたいでリオとはいいコンビなのかも
「リオはティアナと契約してるから、さらわれたんですよね? じゃあ私はいったい?」
「それはわたくしも不思議でしたわ。沙羅をさらってもメリットないと思いますわ。」
男の子だとわかるとこのしゃべり方は、気持ち悪い。
でもこの格好だと違和感ないから、やめてくれないだろう。
ちらっとリオに懇願の眼差しを送ったけど、意図をわかるはずもなくスルーされた。


「沙羅は契約してる感じがするんです。契約がかなり薄くなってますけど、間違いないと思います。」
「そんなはずないです。契約した覚えはないし。勝手に契約されてたりするんですか?」
「勝手には無理ですよ。う〜ん。おかしいですね。」
ティアナは考え込んでいる
私は平凡な高校生だし、契約なんてした覚えは全くない。
あるはずもない。
「どうして私が契約してると思ったんですか?」
「精霊の匂いがついています。」
自分で匂いをかいだけど、そんなものはさっぱり。
ずっと歩いてるし、着替えていないから、汗臭い気はするけど。
考えたら着替えたくなってきた。
水浴びしても、同じ服着てたらあんまり意味ないじゃん。
鞄があったら、制汗スプレー入ってたのに。
鞄ってあのまま電車の中かな?
ああ、成績表入ってるじゃん。
まぁ、そこそこの成績だから、見られても大丈夫か。
「普通に匂いをかいでもわかりませんよ。精霊同士だと感じるものなので。あとは感知能力の優れた魔法使いだと精霊と契約を交わした人間がわかるみたいです。」
う〜ん
そう言われてもな。
「本人に自覚がない以上、考えてもどうにもなりませんわ。この話は置いといて、さっさと行きますわよ。」
釈然としないティアナをリオが引っ張って行く。

街へ急がなきゃね。
野宿は寝にくいから今日はベッドで寝たいし、おいしいもの食べたいよ
あっ、私お金ないけど大丈夫かな?
お金持ってても、この世界で使えないよね。



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まだ街には着かずやっぱり野宿。
今のところ危険な動物には出会ってないけど、この辺は安全なのかな。
今日も歩き続けて疲れたせいか、寝ころぶとすぐに睡魔がやってきた。
ここ2、3日でだいぶ野宿にも慣れたよ。
最初は地面の上で寝るのに抵抗あったけど、何もないからしょうがない。


オオカミの遠吠えみたいな声で、びっくりして目が覚めると、私より早く寝たリオも緊張した様子で辺りをうかがっていた。
「今の何?」
「おそらくオオカミだと思います。見てくるので、ここで待っていて下さいね。リオの側にいれば安全です。」
ティアナが行ってしまうと、かなり不安。
「こう見えてもわたくしは優秀な魔法使いですから、心配いりませんわ。」
リオが胸を張って言った。
リオ、頼りない気がする。
私と同じで地下室に閉じ込められてたし。
期待せずに待っとこう。
早く帰ってきてティアナ〜


オオカミの声は聞こえなくなったけど、ティアナはまだ帰って来ない。
不意に嫌な予感がして後ろを振り返ると、爛々と光る獣の目。
びっくりして声も出ない。
何これ?
こんな生き物見たことないよ。
きっと肉食だ。
私の様子に気がついたリオが、 何かつぶやくと炎の塊が現れ、獣を包んだ。
獣が動かなくなったので、安心していると、別の方向からうなり声と共に獣が襲いかかってきた。
やられると思って、死を覚悟して目を閉じけど、聞こえたのは獣の断末魔の声だった。
恐る恐る目を開けると、獣の急所に突き刺さった剣を抜きながら、男がこちらを見た。

助かったかぁ。
この人が助けてくれたんだ。
「大丈夫か?」
「貴方は何者ですの?」
リオが私と男の間に立って、男をにらんでいる。
男は剣を鞘にしまうと、肩をすくめる。
「助けてくれありがとうございます」
リオの後ろから頭を下げた。
助けてもらってその態度は失礼だよね。
「妖魔が暴れてたら、ほっとけないだろう。大丈夫そうでよかった。女の子2人でここは危ない。最近妖魔がよくでるからな。」
男はよく見ると金髪碧眼で、がっしりした体躯でかっこいい。
王子様って感じ。
「助けてもらわなくても、大丈夫でしたわ。」
何が気に入らないのか、まだリオは睨んでいる。
全然大丈夫じゃなかったと思うよ。
この人が来なかったら、私は食べられちゃってたかも。
やっとティアナが帰ってきた。


「遅くなってすいません。ちょっと遠くまで様子を見に行ってきたので。もしかして妖魔が出たのですか?」
本当に遅かったよティアナ。
ティアナがいない間こっちは大変だったよ。
「うん。1匹はリオがやつけたんだけど、もう1匹はその人が助けてくれたました。」
「それはありがとうございます。リオどうしたんですか?」
まだリオが睨んでいるから居心地が悪い。
「偶然通りかかっただけだ。あんた達は街に行くのか? よかったら一緒にどうだ?」
それは心強いよね。
強そうだし。
ちらっとリオを見ると憮然としている。
「そうですね。ご一緒しましょう。」
ティアナはニッコリ同意
「リオはいいの?」
「ええリオは、沙羅にいいところを見せようと思って、うまくいかなくて拗ねてるだけだから、いいんですよ」
「そんなんじゃありませんわ。」
リオはふんっとそっぽを向いて座った。
本当に拗ねてるだけだったら、リオもかわいい所あるね。

「俺はクラウド。武者修行の旅中」
「私はティアナです。リオの精霊です。よろしくお願いします。」
「私は沙羅です。」
クラウドは精霊が珍しいらしく、まじまじとティアナを見ていた。


人数も増えてにぎやかな旅になりそう。
これだけみんな美形ぞろいだと目の保養になるね。
この中で私だけ浮いてるなぁ。
それにしてもさっきは怖かった。
まさかあんなものまでいるとは・・・。
さすが異世界。
かなり危険なところだ。
あんなものがいっぱいいたら、気が変になりそう。




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